Gartner Marketing Symposium/Xpo 2026 Key Takeaways

June 11, 2026

Gartner Marketing Symposium/Xpo 2026 Key Takeaways:勝負はAI導入ではなく、その手前の組織設計で決まる

Gartner Marketing Symposium/Xpo 2026(米国デンバー)に今年も参加してきました。オープニング基調講演の詳細は基調講演レポートで紹介しています。本稿では、3日間のセッションに参加して見えてきたことを、参加者としてのTake awaysとして整理します。

全体サマリー:今年のシンポジウムで語られていたこと

Gartner Marketing Symposium/Xpo 2026で繰り返し語られていたのは、AIそのものではありませんでした。語られていたのは、人、組織、意思決定、リーダーシップ、そして信頼です。

Gartnerが示したデータによれば、CMOの98%はすでにAIを利用または試験導入しており、マーケティング予算の15%がAIに投じられています。AI導入そのものはもはや競争優位ではない、というのが会場全体の共通前提になっていました。一方で、多くの企業は期待した成果を生み出せておらず、CEOからAIに精通していると評価されるCMOはわずか15%にとどまる。AIを使っていることではなく、成果につながっているかどうかが問われる段階に入った、というのが各セッションに共通するトーンでした。

その中でGartnerが最も強く警告していたのが、AI活用の変曲点です。一定の成果が出始める段階で、多くの企業は従来の延長線上で投資を続ける。しかしその先は、同じ努力を重ねても成果が伸びにくくなり、組織間の差が急速に広がっていく。そしてこの壁を越えられる企業と越えられない企業の違いはAIツールではない、と各アナリストは口を揃えていました。

違いとして挙げられていたのは、意思決定のルールが定義されているか。データの土台が整備されているか。AI活用を組織全体へ広げる仕組みがあるか。人材育成と業務設計が結び付いているか。つまり、AIの手前にある組織設計です。

また、成果を出している企業はAI投資と同時に人材投資も続けている、というデータが繰り返し示されました。AIは人の代替ではなく、人とAIの役割を再設計するための手段として語られていたのが印象的です。顧客との関係においても同じ構図で、重要なのはコンテンツの量ではなくコンテキストである。顧客の意思決定を支援する文脈を設計できる企業ほど、AIを競争優位につなげている、という整理でした。

CMOに求められる役割の変化も、複数のセッションで語られていました。マーケティング部門の責任者から、市場の視点を経営判断へ持ち込む存在へ。テクノロジーを管理する人から、事業変革を主導する人へ。そしてAI時代に重要なのは、AIスキルそのものよりも、問いを立てる力、戦略思考、意思決定、組織を動かす力だ、という主張です。

AIは組織の強みも弱みも増幅する。だから勝負はAI導入で決まるのではなく、その手前の組織設計で決まる。これが、今年のGartner Marketing Symposium/Xpo 2026を通じて一貫して語られていたメッセージでした。

以下、このサマリーの各論点を、個別セッションで示されたデータとともに詳しく見ていきます。なお、AI成熟度の3段階モデルや3つのコンピテンシー・トラップなど、基調講演の内容そのものは基調講演レポートに譲り、本稿ではそれ以外のセッションで語られたことを中心に扱います。

1. 二極化のデータ:横ばいの予算の下で、勝ち組と置き去り組が分かれた

予算は横ばい。しかし結果は横ばいではない

CMO Spend調査によると、マーケティング予算は売上比7.1%で横ばいが続いています。しかも、2022年と比べると18%低い水準のままで、まだ回復していません。B2B企業を9年間追跡してきたベンチマーク調査では、企業が「勝ち組」と「置き去り組」に明確に分かれつつあることも報告されました。年20%以上のオーガニック成長を実現しているリーダー企業は、売上比9.6%をマーケティングに配分し、40%がすでにAIエージェントを導入しています(一部導入を含む)。

一方、置き去りになった企業群のマーケティング予算は売上比6.9%。AIも、主にコスト削減や効率化の道具として使われており、計画の見直しも年次にとどまっている、という対比でした。

リーダー企業の64%は売上10億ドル超の大企業ですが、差を生んでいるのは企業規模ではなく、ポートフォリオの意思決定だという分析もありました。

リーダー企業の経営陣は、AIに収益への貢献を期待している。一方、置き去り企業の経営陣は、AIに業務改善を期待している。この期待値の違いが、選ぶユースケースの違いになり、最終的には成長の差として表れている、という説明です。もうひとつ重いデータがあります。CMOの56%が、成長目標を達成できなければ予算をさらに削られると回答しています。未達だから削減され、削減されるからまた未達になる。横ばいの予算は、もはや現状維持ではなく、それ自体が成長制約になるという点も指摘されました。

停滞しているサインは、パーソナライゼーションへの一点賭け

CMOへの調査で、興味深い結果が紹介されていました。変革をもたらす能力は何か。成果にいちばん効く能力は何か。成長のドライバーは何か。どの質問にも、CMOの答えはパーソナライゼーションだったそうです。

Gartnerはこれを、一つの駒に頼りすぎている状態であり、AI活用の成熟度が低い証拠だと指摘していました。実際、70%の組織には、AIを組織全体に広げるための社内プロセスがないというデータも示されています。逆に言えば、残りの30%はその仕組みをすでに持っている。Gartnerはこの30%をAI Strategistと呼んでいましたが、面白いのは、彼らが業種や規模や事業モデルと関係なく存在するという分析です。どんな会社でもなれる、違いは行動だけだ、と。彼らは予算の21.3%をAIに投じ(平均は12.9%)、予算の約3分の1をイノベーションに配分し、四半期単位で計画を見直しているとのことでした。

2. 組織設計:成果を分けた4つの土台

意思決定のルール:あいまいなプロセスにAIを足すと、プロセスは壊れる

AIは人間より速く、人間より大規模に、間違った判断を下せる。それでも結果の責任を負うのは人間である。だから意思決定のルールを文書にせよ、というのがGartnerの処方箋でした。

具体的に挙げられていたのは5つの要素です。何をきっかけに判断するのか、何のための判断か、判断材料は何か、何が出てくるのか、誰が承認するのか。これを書き出しておけば、意思決定は誰がやっても再現でき、チームに理解され、社内外に説明できるものになる。地味な作業に見えますが、文書になっていない意思決定は人にもAIにも任せられない、という指摘には説得力がありました。

データの土台:IA before AI(情報アーキテクチャなくしてAIなし)

IBMの担当者は、327の業務プロセスと数千の細かいタスクを6ヶ月かけて棚卸しし、デジタル化してから、ようやくAIのロードマップに着手したと語っていました。AT&Tは、AIモデルを作る前に、まず社内の言葉を揃えることから始めたそうです。キャンペーンという同じ言葉が部門ごとに違う意味で使われている状態では、AIは間違った情報を自信満々に学習してしまう、というのが理由でした。Indeedからは、予算データを一つの場所にまとめただけで、経理部門の月次決算が毎回4〜8時間短くなったという報告も。マーケティング発のプロジェクトが経理を助け、部門を超えた信頼につながった好例です。土台のないAIは、ノイズを増幅するだけ。AIの前に、まずデータという指摘です。

広げる仕組み:AI研修は成果と相関しなかった。相関したのは、使うことの必須化

Gartnerの調査では、CMOの30%がAI研修に投資し、27%が業務でのAI使用を必須にしている。マーケティング成果との相関を調べたところ、相関があったのは必須化のほうだけだったといいます。研修への投資は、それ単体では成果と相関しなかった。マイナスの相関ではなく、相関なし、という結果です。ただし、研修不要論を唱えていたわけではありません。別の調査では、高成長企業はAIの訓練にしっかり投資していることも示されています。効かないのは、研修だけやって、実際に使うかどうかは本人任せ、というパターン。業務で必ず使う状態を作り、誰が何をやっているかを見えるようにする。そこまでセットにして初めて研修も生きる、という整理でした。

具体策も紹介されていました。プロンプトを個人のノウハウで終わらせず、共有して再利用できる会社の資産として管理する。誰のプロンプトが他の人に再利用されたかを評価する。週次の1on1で、先週どんなプロンプトを書いたか、誰かのプロンプトを使い回したかを普通に話題にする。学んでから使うのではなく、使いながら学ぶ。これが成果と相関した組織の行動様式だそうです。

なお、自動化への取り組みが進んでいる組織は、AI投資のリターンを実感している確率が2倍というデータもありました。現在のワークフロー自動化率は平均16%前後ですが、2年で倍増させる計画が一般化しており、ここでも先行組と後発組の差はこれから一気に開く、という見立てです。

人材育成と業務設計:全員を達人にしない。そして人を削らない

マーケターの70%が業務でのAI活用を求められているのに、必要なサポートを受けられているのは半数だけ。結果として、マーケターの50%はAIに後ろ向きで、積極的に使いこなしている人は20%にすぎない、というデータが示されていました。

ここでのGartnerの処方箋は、全員を達人にしようとせず、役割ごとに、必須スキルとその仕事に効くAIの使い方を2〜3個だけ決めて、全員がここまでは使えるというラインを引くこと。根拠となるデータも紹介されていました。自分の貢献には価値があると実感できている従業員は、AIに前向きな感情を持つ確率が2.5倍になる。AIの定着は知識の問題ではなく感情の問題であり、不安の正体はAIそのものではなく、自分の役割の未来が見えないことにある、という説明には納得感がありました。

人材投資の実態データも示されています。CEOの93%が、人材と文化こそ成長の最重要課題だと認識している。人件費への投資は2021年以降一貫して増えており、AIに最も投資している組織ほど、人への投資も維持していたそうです。AIへの投資が人への投資の代わりになっているのではなく、両方に投資した組織が伸びている、という構図でした。

人員計画については、Workforce Remixingという考え方が紹介されていました。何人必要かではなく、どの判断をどこまでAIに任せるかを考える。判断を影響度とリスクの2軸で整理し、影響が小さく頻度の高い判断はAIに任せ、影響が大きくリスクの高い判断には人間の目を残す。これをコスト削減の話ではなく、より良い成果のための役割の再設計だと強調していました。

3. 顧客とコスト:外部環境も同じ論理で動いている

顧客に必要なのも、量ではなく文脈

顧客側のデータも印象的でした。買い手の4人に1人は、すでに購買の判断そのものをAIに任せている。一方で、B2Bの買い手の69%は、AIから得た情報を人間の営業に確認したいと考えている。顧客の43%は情報が多すぎて、見たものの真偽を確かめることに時間を取られている。そこにAIでコンテンツを増産すれば顧客を溺れさせるだけで、実際、不気味だと感じるレベルのAIパーソナライゼーションを経験した顧客は、購買を後悔する確率が6倍になるそうです。

今後は、人間の顧客向けと、顧客が使うAIエージェント向け、2種類のカスタマージャーニー設計が必要になるという指摘もありました。詳細な事例(GE Healthcareのアプローチなど)は基調講演レポートで紹介しています。

AIはメディア費を下げない。むしろ上げる

直感に反するデータとして紹介されていたのがこれです。AIで運用が効率化すれば広告費は下がりそうなものですが、実際にはペイドメディアの比率は上がり、デジタル費は前年比18.2%増。CMO自身が支出増の理由として、AIのパーソナライゼーション能力と最適化能力を挙げているといいます。

効率が上がると、広告1ドルあたりのリターンが大きくなる。すると、もっと投じたほうが得になる。だから支出が増える。効率化は総額を固定すれば節約になるが、成長を求められているマーケティングでは増産に化ける。経済学でジェヴォンズのパラドックスと呼ばれる現象です。

もうひとつ、より深刻な問題も指摘されていました。AIの最適化は、クリックやコンバージョンのような分かりやすい成果が返ってくるチャネルに予算を寄せ続ける。検索広告やSNS広告はデータが豊富なので優遇され、スポンサーシップのような効果が長期で測りにくい施策は、本当の価値とは無関係に、メディアプランから静かに消えていく。AIによる確証バイアスへの警告です。

興味深かったのは、AIに最も投資している組織ほどデジタル偏重ではなく、むしろ顧客のロイヤルティや維持に厚く配分していたというデータでした。成熟度が低い組織はAIのクセに配分を歪められ、高い組織はAIのクセを乗りこなしている、ということだと理解していると指摘しています。

コスト構造は時限爆弾

Gartnerの予測では、Martech費はマーケティング予算の現在の18%から、2029〜30年には30%超に拡大します。AIエージェントの普及が押し上げる、という読みです。

問題は金額ではなく構造にある、というのが複数セッションでの共通の指摘でした。固定料金の契約から、使った分だけ払うコンサプションモデルの課金モデルへの移行が進んでおり、AIのコストは使うほど増える変動費に変わりつつある。短期的には固定費が下がってお得に見えるが、それは料金の床が下がっただけで、天井が消えている。処方箋として挙げられていたのは、IT部門がクラウドコストの管理で培ってきたFinOpsの手法(利用量のダッシュボード、契約前のベンダー精査、効果検証のテスト)をマーケティングに持ち込むことでした。マーケティング版のFinOpsとも呼ぶべき領域の重要性が高まります。

4. CMOの役割:部門の責任者から、経営判断に市場の視点を持ち込む存在へ

CMOは財布を握っていない。だから協働が利益になる

意外なデータが示されていました。Martechの資金の3分の1はIT部門から、ほぼ半分はマーケティング部門の外から出ている。CMOが単独でテクノロジー戦略を決められる時代はすでに終わっている、ということです。

協働の価値を示すデータも明確でした。CIOと高いレベルで協働できている組織は全体の2割弱しかないが、その組織の事業目標の超過達成率は71%。それ以外の組織は35%。倍以上の差です。

成果を出している企業の実践事例も紹介されました。経営幹部同士でカレンダーを公開し合う。会議は進捗報告の場ではなく、チームの障害を取り除くためだけに使う。そして、共通KPIを達成しなければ誰も成功と見なされない目標設計にする。どれも特別なテクノロジーの話ではありません。むしろ組織運営の話です。セッションを通じて繰り返し語られていたのは、テクノロジーの所有権を争うな、というメッセージでした。重要なのは、どの部門がシステムを持つかではない。どう使うのか、そして顧客をどれだけ深く理解できるのか。その主導権を握ることこそが競争優位につながる、という点です。

海外展開などの大きな意思決定に、マーケティングを最初から入れる

CEO調査セッションでは、CEOの27%が海外展開を優先課題に挙げているというデータとともに、マーケティングが最後に呼ばれる組織では、顧客の実態ではなく仮定の上に計画が組まれてしまうという警告がありました。

教訓として引用されたのが、英Tescoの米国進出の失敗です。英国での成功モデルをそのまま米国に持ち込み、買い物行動の違いを見誤って撤退。損失は10億ドルに上ったそうです。成功は市場で起こり、マーケティングは市場の声である。AIによる市場シグナルの常時分析やシナリオ分析は、マーケティングがこうした意思決定の上流に座るための武器になる、という位置づけでした。

いちばん大事なスキルは、AIスキルではない

成果を出しているCMOに共通するスキルとして紹介されていたのは、ビジネス感覚、戦略思考、説得力。AI固有のスキルではありませんでした。どれだけプロンプトが上手くても、そもそも何を問うべきかが分からなければ意味がなく、AIが出した答えの妥当性を見極められなければ危険ですらある。AIが増幅装置である以上、基礎スキルのほころびも増幅される。技術研修の前に、問いを立てる力に投資せよ、というメッセージです。

おわりに

3日間で最も印象に残ったのは、AIの話をしているはずのカンファレンスで、語られていたことのほとんどが組織と人の話だったという事実です。

自社の意思決定は文書化されているか。データの言葉は部門間で揃っているか。AIを「使ってもいい」ではなく「使うことが前提」になっているか。そして、AIへの投資と同じだけ、人への投資を続けているか。

この4つの問いに即答できる企業は、まだ多くないはずです。しかし二極化のデータが示す通り、差が開き始めてからでは追いつくコストは指数的に増えていきます。AI導入の手前にある組織設計。来年のシンポジウムでは、この宿題にどう答えたかが問われることになりそうです。

Iku Hirosaki
Tatsuro Marui
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丸井 達郎
代表取締役 | Chair and Chief Executive Officer

株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてグローバルでわずか6名しかいない重要顧客を支援する戦略コンサルティングチームに所属し、グローバルで活用される再現性の高い戦術設計フレームワークで、多くの顧客企業のデジタル変革を成功に導く。GTM戦略の立案から、マーケティング・セールスのテクノロジーまで幅広い知識を有す。自身もマーケターとして、企業の成長に大きく貢献した経験を持つ。テクノロジースタートアップ企業の海外進出も従事した後、2021年ゼロワングロース創業。仏INSEADにてCGM(Certificate in Global Management)プログラム修了。

著書に「数字指向」のマーケティング データに踊らされないための数字の読み方・使い方(MarkeZine BOOKS)マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識」(MarkeZine BOOKS)レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識(MarkeZine BOOKS)がある。

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ぼやけた白い円形の点。