イベントレポート:Gainsight Pulse 2025 Part 2

June 17, 2025

イベントレポート:Gainsight Pulse 2025 Day2

AIと人間らしさの融合によるレベニューリーダーシップ

Day 2が開幕:次のステージへ向けて

Pulse 2025の2日目は、初日の高揚感そのままにスタートを切りました。再びステージに立ったのは、GainsightのCEOであるニック・メータ氏。Day 1では参加者全体を「Freshman(新入生)」になぞらえ、未知の世界に足を踏み入れるワクワク感を共有していましたが、Day 2ではその学びを“次のレベル”へ昇華させることがテーマとして掲げられました。

冒頭では、前日に引き続き、映画『Wicked』の世界観と、作中に登場する「Shiz大学」の世界観を再現する演出が行われ、エンターテインメント性とメッセージ性の両面で会場を盛り上げました。ニック氏は「昨日は学びと驚きに満ちた1日だったが、今日はその気づきを実務に落とし込むための実践的なセッションを届ける」と語り、来場者に新たな期待感を持たせるイントロダクションを展開しました。

その流れを受けて、Day 2のセッションは、Gainsight社内で実際に進行している取り組みの紹介へと続きました。特にセールスとカスタマーサクセスを融合する変革の具体例が中心に据えられ、現場での知見がどのように企業全体の構造改革へとつながっているのかが詳しく語られました。

セールスとカスタマーサクセスの融合を目指して

まず登壇したのは、GainsightのChief Revenue Officer(CRO)であるマリリー・ベア氏と、Chief Customer Officer(CCO)のブレント・クレンプゲス氏の2名。どちらも米国中西部・ミズーリ州の出身という共通点を持ち、ステージ上では『オズの魔法使い』の登場人物になぞらえたコスチュームで登場しながら、Gainsightにおけるレベニュー部門の再構築の軌跡を語りました。

マリリー氏は、2018年に自身が初めてPulseに参加した当時を振り返り、「CEOのニックが語る構想は、エネルギーとユニークな図解に満ち、これまで出会ったことのないタイプのリーダーだと感じた」と印象を述懐。そして、現在のレベニュー組織が直面する課題について次のように述べました。

「ZIRP(ゼロ金利政策)時代──つまり、資金調達が容易で成長速度が最優先だった時代においては、部門間の境界が曖昧でも十分に業績を上げることができた。しかし、いま私たちが直面しているのは、成長だけでなく効率性、迅速な価値提供、そして高い継続率(リテンション)が厳しく求められる現実であり、過去のやり方では通用しない段階にきている。」

このような認識のもと、Gainsightはセールスとカスタマーサクセスの分断を乗り越え、両者が一体となって成果を最大化する新たな連携モデルの構築に踏み出しました。

“Staircase”を軸とした次世代GTM(Go-to-Market)構造

この組織的な再構築を支えた中核の仕組みが、Gainsightが自社で設計・導入したデータインフラ「Staircase」です。Staircaseは、アカウントの状態やエンゲージメント状況をリアルタイムで可視化するプラットフォームであり、「誰が積極的に関与しているのか」「誰が沈黙しているのか」「どのアカウントが将来的にリスクを抱える可能性があるのか」といった点を、リスク顕在化の前に察知することを可能にしました。

これにより、担当者が“火消し的”に動くのではなく、リスクの兆候に基づいて戦略的に行動することが可能になり、全社的な連携による予防的対応が実現しました。

組織再設計においては、単なるKPIの見直しではなく、以下のような根本的な問いを起点にしたアプローチが取られました:

  • 顧客は、本当は何を達成しようとしているのか?
  • 自社の業務プロセスにおいて、どこに非効率や重複が存在しているのか?
  • 各チームのリソース配分と成果のバランスは適切か?

これらの問いへの回答をもとに、GainsightはGTM(Go-to-Market)戦略を次の3つの軸で再構築しました:

  1. Motion – 顧客とどのような接点を持ち、どのような目的で行動するか
  2. Customer Type – 顧客の業種やニーズに応じた区分
  3. Value Tier – 顧客に提供する価値のレベルに応じた優先順位付け

この構造改革により、セールスとCSが情報と目的を共有しながら、戦略の立案から現場での実行までを一貫して担う体制が整備され、Gainsight全体のオペレーションモデルが進化を遂げつつあります。

成果を生んだ3つの具体的変化

組織再設計に取り組んだGainsightは、その中で特に大きなインパクトをもたらした3つの具体的な変化について、セッション内で詳細に紹介しました。これらはいずれも、単なる制度変更にとどまらず、セールスとカスタマーサクセスの統合的な体制を定着させるうえで重要な役割を果たしています。

1. AIの本格活用による判断力の強化

Gainsightでは、AIを単なるトレンドとして扱うのではなく、「人の判断力を補完し、業務の優先順位を明確にする道具」として戦略的に導入しています。AIの活用は、業務プロセスの可視化と予測精度の向上に大きく寄与しており、特に以下の3つの機能が強調されました。

  • Effort Score(エフォートスコア):顧客ごとのライフサイクルやステージに応じて、人的リソースが適切に配分されているかを定量的に評価。これにより、必要以上の人員を投入しているアカウントや、逆に放置されているリスクアカウントの早期特定が可能となります。
  • トピック分析:チームが日々対応している業務や成果物に含まれるテーマ・内容を分析し、どのタスクが顧客価値につながっており、逆にどの業務が“チェックボックス的”な形骸化した作業に陥っているかを判断する材料として活用。
  • チーム負荷分析:個々のメンバーの稼働状況や業務の偏りを可視化し、燃え尽き(バーンアウト)の兆候を事前に捉えて、マネジメントが迅速に介入できる体制を構築。組織の持続可能性を高めるうえで不可欠な要素となっています。

このように、AIを活用して「どこに力を入れるべきか」「どこがボトルネックとなっているか」の判断軸を整備することで、Gainsightはより高度な運営判断とリソース最適化を実現しています。

2. オンボーディング体験の再定義

顧客がソフトウェア導入を決定した直後のフェーズにおいて、期待と不安が入り混じる状態にある──この“感情の断絶”を解消するために、Gainsightはオンボーディング体験の設計を抜本的に見直しました。

従来は、プリセールスの担当者が契約締結後にプロジェクトから離れ、オンボーディングはCSチームが単独で担当していましたが、現在ではプリセールスがオンボーディング段階にも継続して関与する仕組みへと変更されています。

これにより、営業プロセスで築かれた信頼関係が切れることなく、導入初期のサポートフェーズへと自然に移行できるようになりました。また、社内における部門間の連携強化だけでなく、顧客にとっても安心感のあるスタートが切れるという効果をもたらしています。

結果として、火消し対応やエスカレーションが発生する頻度が減少し、より戦略的で持続可能なオンボーディングプロセスが定着しつつあります。

3. リニューアル制度の再設計

従来はCS部門が主体となって担っていた契約更新業務(リニューアル)について、Gainsightではセールス部門にも明確な責任とインセンティブを付与する形へと制度を再設計しました。これにより、組織全体でリニューアルに対するオーナーシップを持つ文化が醸成されています。

具体的な変更点として、以下のような制度設計が挙げられました:

  • リニューアルを営業の報酬体系に正式に組み込む:契約更新も新規受注と同様、営業のクオータ達成に寄与する評価対象とした。
  • アクセラレーター制度の導入:契約更新目標の100%達成で2倍、105%達成で3倍の報酬を得られる仕組みによって、高い成果へのモチベーションを刺激。
  • マルチイヤー契約の評価強化:複数年契約については、新規契約と同等に扱い、長期的な顧客維持を推進する。

この制度改変によって、リニューアルの成功が一部門の責任ではなく、全社的なミッションとして認識されるようになり、更新率の向上、売上予測の精度強化、顧客満足度の改善といった成果が着実に現れています。

現代のレベニューリーダーシップのかたち

セッションの締めくくりとして、マリリー氏とブレント氏が強調したのは、現代のレベニューリーダーに求められる3つの核心的要素でした。それは次のように要約されます:

Data-Informed(データに基づく)
AI-Powered(AIによって補強される)
Human-Led(人間らしさに根ざしたリーダーシップ)

この3つの軸のバランスこそが、今後のレベニュー組織の持続的な成長を導く鍵であると語られました。

中でも特に注目すべきは、これまで分断されがちだったセールスとカスタマーサクセスの関係性が、大きく進化している点です。かつては別々のKPIを追う独立したチームと見なされていた両者が、今では戦略を共に描き、成果に対する責任を共有するパートナーとして再定義されつつあります。

この変化のモデルケースとして紹介されたのが、Gainsight社自身の取り組みでした。AIを活用した連携強化、共通のサクセス指標、部門横断での意思決定など、同社が実践している具体的なアプローチは、参加者にとって極めて示唆に富むものであり、次世代のレベニュー組織像を体現する好例として大きな関心を集めました。

パネルディスカッション:AI時代のスケーラブルなCustomer Success

「進化し続ける顧客に対して、どのようにAIを活用してカスタマーサクセスを拡張・最適化していくか」

成長し続ける顧客、変化する環境──その先にあるスケーラビリティ

Pulse 2025 Day 2の注目セッションのひとつが、グローバルに展開するB2B企業のカスタマーサクセスリーダーたちによるパネルディスカッションでした。テーマは、「AI時代におけるスケーラブルなカスタマーサクセスの実現」。登壇したのは、LinkedInのAshvin Vaidyanathan氏、NielsenのRyanne Laredo氏、WorkdayのAaron Sothmann氏の3名です。

モデレーターによる軽妙なアイスブレイク──「空を飛ぶなら、ほうき派?バブル派?」という問いかけ──から、セッションは和やかな雰囲気でスタート。しかし内容は極めて実践的かつ示唆に富んでおり、AIによってCSをどうスケールさせるか、そしてその中で人間ならではの価値をどう再定義するかについて、深い洞察が交わされました。

1. 顧客の“サイン”をどう見つけ、どう捉えるか

Nielsen:Staircaseによる“兆候”の早期発見

Ryanne氏は、「全顧客と1対1で深く対話するのは現実的ではない」と指摘したうえで、Gainsightの「Staircase」を活用することで、あらゆるチャネルでの顧客とのやりとりを俯瞰的に可視化し、共通するテーマやリスク兆候を早期に把握していると紹介しました。これは、エスカレーションが発生する前に介入のタイミングを見極めると同時に、満足度を高める“意図的な驚き(delight)”の機会を見つけるための手段としても活用されているとのことです。

Workday:コミュニティ+構造・非構造データの統合

Aaron氏は、Workdayの顧客主導型アイデア投稿プラットフォーム「Ideation Hub」やピア同士のフォーラムが、製品の共創とイノベーションに大きく貢献している点を紹介。また、四半期ごとのNPS調査や管理者・エグゼクティブ向けアンケートによる定量的な指標に加え、CSMが記録するTimelineなどの非構造データを統合的に活用し、CSプレイブックの高度化を図っていると述べました。

LinkedIn:マルチスレッドによる信頼強化

Ashvin氏は、B2Bにおける意思決定構造の複雑さに着目。「1つのアカウントには複数のステークホルダーが存在するのが当然であり、1対1の関係性に依存するのはリスクが高い」とし、複数の関係構築(=マルチスレッド)こそが長期的な信頼とビジネス成果につながると強調しました。

2. AIによる“ナッジ”の自動化──スケーラブルなアクション設計

LinkedIn:LLMによるハイパーパーソナライズドなメール配信

Ashvin氏は、LLM(大規模言語モデル)を活用して、プロダクト利用状況、業界ベンチマーク、オンボーディング進捗などの要素を取り入れた個別最適なメール配信を自動生成していると紹介しました。この取り組みにより、従来は人手で数週間かかっていたメール作成プロセスが短縮され、結果としてプロダクト利用率やオンボーディング完了率が20~40%向上したとのことです。

Workday:人力×AIのハイブリッド・オーケストレーション

Aaron氏は、AIによる自動的なターゲティングと、人によるフォローアップを組み合わせた“ハイブリッド型”のアプローチを採用していると述べました。ユーザーの行動履歴やパターンに応じて最適なチャネルとタイミングでアクションを促すことで、無駄のない顧客体験を設計している点が印象的でした。

3. 自動化と人間の価値──バランスの取り方

AIの活用が進むなかで改めて問われるのが、「人間にしかできない価値とは何か」という問いです。

Ashvin氏は、CSの業務を「顧客にとっての付加価値の大きさ」と「自動化のしやすさ」の2軸でマッピングし、価値が低く自動化可能な業務は積極的にAIに委ね、逆に顧客の目標を深く理解するような高付加価値業務はCSMが担うべきだと論じました。

Aaron氏も、「信頼の構築やコミュニティの形成は人間の仕事であり、AIは“魔法の杖”ではなく、あくまで補助的なツールである」と強調。AIの利便性に依存しすぎず、その使い方を熟慮することの重要性が語られました。

4. AI時代に求められるスキルと組織の進化

Workday:ビジネスリテラシーと“翻訳”スキル

Aaron氏は、AIがノイズ処理に優れている一方で、微妙なニュアンスや意図の解釈は人間にしかできないとしたうえで、次の2つのスキルが重要になると述べました。

  1. 顧客の業界トレンドや事業課題を理解し、戦略的アドバイザーとしての立場を築く「ビジネスリテラシー」
  2. AIの出力結果を顧客にとって意味のある“ビジネスの言葉”に翻訳する「トランスレーションスキル」

Nielsen:実績に基づく信頼の醸成

Ryanne氏は、「新しいツールの導入には社内でも懐疑的な声があった」と振り返りながらも、AI活用により従業員が“価値ある仕事”に時間を割けるようになり、顧客体験と従業員満足の両面で成果が出たことが、社内理解の促進につながったと述べました。

LinkedIn:AIリテラシーとCSMの役割拡張

Ashvin氏は、今後のCSMに求められるスキルとして、以下の3点を挙げました:

  • 顧客の不安や疑問に対して人間らしい言葉で丁寧に向き合う“共感的対話力”
  • プライバシーやコンプライアンスに対する深い理解
  • 顧客にAIの使い方を教える“AIフルエンシー(AI運用力)”

これらのスキルは、テクノロジーが進化しても変わらない「人間中心のカスタマーサクセス」に不可欠な要素だといえます。

5. 「魔法の杖」があったら何を自動化したいか?

セッションの最後には、登壇者が「理想のAI活用像」についてそれぞれの願望を語りました。

  • Ashvin氏(LinkedIn):ユーザーの脳波や感情を読み取り、理解度や体験状況に応じて最適なプロンプトや機能を提示する“ブレイン・インターフェースAI”
  • Ryanne氏(Nielsen):自然言語プロンプトに反応し、動的に改善を繰り返すAIドリブンな顧客対応システム
  • Aaron氏(Workday):顧客の行動データに基づき、会話ベースでカスタマージャーニーを自動生成・最適化する“動的AIガイド”

このセッションは、単なるツールの紹介にとどまらず、「CSとは何か」「人は何を担うべきか」「AIとどう共存するか」といった本質的な問いに向き合う内容でした。AIを単なる自動化エンジンではなく、戦略的パートナーとして受け入れる視点が、これからのスケーラブルなCSモデルの鍵であることが、議論を通じて明確に伝わってきました。

Game Changer Awards:新時代を切り拓く挑戦者たち

Pulseの恒例イベントである「Game Changer Awards」では、今年も業界の変革をリードする個人・組織が表彰されました。カスタマーサクセス、コミュニティ、AI活用といった分野で成果を上げた実践者たちは、次世代のGTM戦略の道しるべとも言える存在です。

GainStars:カスタマーサクセス文化の継承者たち

次に紹介されたのが、「GainStars – プラチナメンバー」として表彰された9名のリーダーたちです。彼らは単なるGainsightユーザーにとどまらず、年間を通じて知見の共有やコミュニティ貢献を行い、Gainsightの価値を体現する存在です。そして今年、日本から初のGainStar選出として、ソフトバンク株式会社の小林香菜氏が表彰されました。カスタマーサクセス分野での実践と継続的な情報発信が評価され、グローバルのステージで日本市場の存在感を示す象徴的な出来事となりました。

Fireside Chat:ZoomInfo CEO ヘンリー・シャック氏が語る、AI時代のGTMと人生戦略

GTMの未来と人間の価値を再定義する時間

Day 2のハイライトとも言える本セッションには、ZoomInfoの創業者兼CEOであるHenry Schuck(ヘンリー・シャック)氏が登壇。聞き手とのFiresideスタイルの対話形式で進行され、AIによって劇的に変化しつつあるGo-To-Market(GTM)戦略の本質的変化、さらには企業経営や組織づくりにおける思想、そして自身の人生哲学に至るまで、幅広くかつ深い話題が展開されました。この対話から浮かび上がったのは、もはやGTMが「部門間の分業」ではなく、AIを含めた有機的なチーム構造として捉え直されるべきであるという強いメッセージでした。

ZoomInfoについて
ZoomInfoは、B2B企業向けにセールス・マーケティング・カスタマーサクセスの業務効率化と成長支援を行う米国発のテクノロジー企業です。高精度な企業・人物データベースとインテリジェンス機能を備えたプラットフォームを提供し、GTM(Go-To-Market)活動の最適化を支援しています。特に近年は、AIを活用したオペレーション自動化や予測モデルの高度化を通じて、世界中の多くのSaaS企業やエンタープライズ企業のGTM戦略を進化させる役割へと進化しています。https://www.zoominfo.com/

GTMはチームスポーツであり、AIもその一員

ZoomInfoは自社のNASDAQティッカーシンボルを「ZI」から「GTM」に変更するという前例のない決断を下しました。これは単なるブランディングではなく、「GTMこそが会社の存在理由である」とする思想の体現です。

ヘンリー氏は、「GTMとはセールス、マーケティング、CS、プロダクト開発のいずれか一部の活動ではない。これらすべてが連携して顧客価値を最大化する“チームスポーツ”である」と語ります。そしてその“チーム”の一員としてAIが加わる時代に突入したと明言しました。トップセールスの商談プロセス、アクション、メールパターンなどをAIが模倣・補完し、他メンバーにも展開する仕組み。従来のように人力による“属人的成功”に頼らず、成功要因をテクノロジーで横展開するスケーラビリティの実現を目指しています。

このモデルの要となっているのが、CRMだけでなく、実際に業務が行われているExcelやSlackなどの非構造データも含めた“現場情報”をカバーするデータ基盤の整備であり、「AIを活かすには、まず正しい文脈と行動履歴が必要」という原則が示されました。

GTM業務の70%はAIに代替される未来

「今後2年で、GTM関連業務の70%はAIによって代替される」──この予測を、ヘンリー氏は具体例とともに提示しました。

  • ターゲットアカウントの調査・分析
  • 見込み客の優先度設定(スコアリング)
  • QBR(四半期レビュー)資料の生成
  • 営業活動の推奨アクションの提示

これらの業務は人が行うべき作業ではなくなり、AIが実行すべき“標準化可能な反復作業”に移行していくとのこと。結果として、人的リソースは限られた時間の中で「利益最適化」か「成長への再投資」かという資本配分の再設計を迫られると語りました。

単なる業務効率化ではなく、「経営判断の質を左右するリソースの再配分」という文脈でAIを捉える必要があるというメッセージは、重みのあるものでした。

Post-Salesに“Net-New”並みの投資と仕組みを

GTM活動が新規顧客開拓(Net-New)に偏重しがちな点についても、ZoomInfoは再定義を進めています。

ヘンリー氏は、「既存顧客からの収益拡大こそ、企業のサステナブルな成長の鍵である」と指摘。にもかかわらず、多くの企業ではPost-Sales部門にはSDRやDeal Desk、RevOpsといった支援機能が整備されておらず、チャンピオン交代や関係性の変化といった重要シグナルが見過ごされがちであると述べました。

ここで必要なのは、「Net-Newと同じくらいの戦略性と仕組みをPost-Salesにも導入すること」。これが今後の競争力を左右する分水嶺になると強調されました。

“Customer Development Rep”という逆転の発想

その具体策として、ZoomInfoが新設したのが「Customer Development Rep(CDR)」です。このCDRは、既存顧客のなかで新たな展開や課題が発生しそうな領域に対してアポイントを創出する役割を担います。

これにより、アカウントマネージャーは“守り”から“攻め”へとシフトでき、より戦略的かつ創造的な活動に集中することが可能に。既存顧客を“維持する対象”から“新たな成長の起点”として再定義するこの発想は、GTM戦略におけるポストセールスの意義を根底から覆すものです。

“売らない1年”という大胆な決断

さらに驚きを呼んだのが、「1年間はアップセルを行わない」という経営判断。この決断は、売上短期目標の放棄を意味する一方で、次の3つの戦略的目的を果たすためのものでした。

  1. 顧客との会話の目的を“売ること”から“理解すること”へと転換
  2. 本質的に価値あるプロダクトづくりに社内を集中させる
  3. セールス・CS・プロダクトの部門間整合性を再構築する

その結果、ZoomInfoでは“売らない期間”を経ることで逆にプロダクト主導の信頼と成長基盤が強化され、アップセル率も長期的に改善したという事例が共有されました。

「完璧なスコア」より「即時アクション設計」

KPIやスコア設計に対しても、ヘンリー氏は明快です。

スコアの正確性を追い求めるより、“何かが変化した時に何をすべきか”を決めておく方が実務的には遥かに重要

この考え方は、データ分析における“行動設計”の視点を示しており、CSやセールスチームが「気づいた時には手遅れ」という状態を回避する上での重要なフレームです。

企業だけでなく、個人にも“ミッション”を

最後に語られたのは、ビジネスを離れた“人生哲学”の重要性でした。

「企業のミッションは数十時間かけて策定するのに、なぜ自分の人生には時間をかけないのか?」という問いかけに続き、ヘンリー氏は自ら「自分の訃報文(Obituary)を書く」というワークを行った経験を語りました。

それにより、自分が“どんな人として記憶されたいか”を明確にし、日々の判断を逆算的に行う軸が得られたといいます。ビジネスだけでなく、個人の意思決定においてもミッションステートメントは不可欠であるという彼の信念は、多くのリーダーにとって深い示唆となるものでした。

まとめ:AI × 連携 × 人間性 = 未来のGTM

最後の問い「SaaS業界は2年でどこまで変わるのか?」に対する彼の答えが、このセッションのすべてを象徴していました。

「すべてが変わるわけではない。でも“無駄な作業”はなくなり、人間の創造性と関係構築力が、これまで以上に価値の中心になる。」

ZoomInfoのヘンリー・シャック氏のメッセージは、GTMにおけるAIの可能性だけでなく、その補完としての“人間の意志と共創性”こそが未来を形づくる原動力であることを強く示した内容でした。

このFireside Chatは、単なるツール活用の枠を超え、企業と個人、AIと人間の“共進化”を本気で問い直すセッションとして、Day 2の中でもとりわけ強い印象を残す内容となりました。

Pulse 2025 Keynote Day2 クロージング

AI時代にこそ、“人間らしさ”を取り戻す──時間と共に歩むカスタマーサクセスの旅

1. 感謝とともに、次の旅へ

クロージングスピーチに登壇したのは、Gainsight CEOのニック・メヘタ氏。締めくくりでありながら、それは次へのスタートでもありました。今年も彼の語りはテクノロジーではなく、“人間らしさ”や“時間”といった本質に焦点を当て、会場は静かな感動に包まれました。

2. 「面白い時代」に生きるということ

「まるで人生が3倍速で進んでいるようだ」──生成AIや自動化によって急速に変化する今を、彼は「Interesting Times(面白い時代)」と表現。その言葉には希望と混乱の両面が込められており、流されずに“未来を見つけに行く”姿勢の大切さを訴えました。

3. 時間の尊さと、家族の風景

スピーチの中では、娘や母親との日常を通じて「時間の流れ」と「人とのつながり」の価値が語られました。「子どもは成長し、親は年老いていく」──その変化に向き合う視点が、AI時代における人間らしさをより際立たせます。

4. ビジネスも“変化の旅”

13年の経営を“Gainsight列車”に例え、乗り込む人・降りる人・送り出す人がいて、風景が変わっていく。その旅の中で得られる出会いと別れこそがPulseやGainsightの本質だと語りました。

5. ニック氏が掲げる「5つの約束」

  • 過去にとらわれない:初心を持ち続ける
  • 未来を見つける:変化は自ら見つけにいくもの
  • 未来を創る:誰もがイノベーターである
  • ノスタルジーに囚われない:過去より“いま”を生きる
  • 若さを保つ:学びと好奇心が真の若さを保つ力

6. 奪えない“経験”が未来を導く

「あなたが経験したことを奪う力は、この世に存在しない」──ヴィクトール・フランクルの言葉を引用し、AI時代においても人間の経験や感情こそが最大の資産であると締めくくりました。

7. “For Good”──変化を良きものへ

最後に流れたのは、ミュージカル『Wicked』の「For Good」。
“Because I knew you, I have been changed for good.”
この歌詞の通り、Pulseは人と人との出会いを通じて、変化を「良きもの」に変えるコミュニティであることを、改めて参加者に思い出させてくれました。

Pulse 2025で紹介されたように、ポストセールス領域の戦略設計とテクノロジー活用は、あらゆる成長企業にとって今や不可欠なテーマとなっています。

01GROWTHでは、既存顧客からの収益最大化を目的としたポストセールス戦略の立案から、Gainsightをはじめとするソリューションの導入・運用・定着支援まで、一貫したご支援を提供しております。

ご興味をお持ちの方は、どうぞお気軽にご連絡ください

Iku Hirosaki
Tatsuro Marui
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丸井 達郎
代表取締役 | Chair and Chief Executive Officer

株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてグローバルでわずか6名しかいない重要顧客を支援する戦略コンサルティングチームに所属し、グローバルで活用される再現性の高い戦術設計フレームワークで、多くの顧客企業のデジタル変革を成功に導く。GTM戦略の立案から、マーケティング・セールスのテクノロジーまで幅広い知識を有す。自身もマーケターとして、企業の成長に大きく貢献した経験を持つ。テクノロジースタートアップ企業の海外進出も従事した後、2021年ゼロワングロース創業。仏INSEADにてCGM(Certificate in Global Management)プログラム修了。

著書に「数字指向」のマーケティング データに踊らされないための数字の読み方・使い方(MarkeZine BOOKS)マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識」(MarkeZine BOOKS)レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識(MarkeZine BOOKS)がある。

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