Forrester B2B Summit 2026レポート GTM特異点と視認性の空白

April 29, 2026

Forrester B2B Summit 2026参加レポート

アリゾナ州フェニックスで行われたForrester B2B Summitに参加してまいりました。今回のサミットは1400人が参加。会場では米国をはじめ様々な国から参加した、様々な業種のマーケティング・GTMリーダーたちにお会いしました。4日間に渡りたくさんのセッションやワークショップに参加しましたが、このブログでは初日のキーノートの内容をレポートいたします。

GTMはこれまでの関数が機能しなくなる地点へ

物理学において特異点(singularity)という言葉は関数が定義できなくなる点、つまり既存のモデルが通用しなくなる地点を指すそうです。ものすごいエネルギーをもつブラックホールの内側ではニュートン物理学も量子力学も成立しないように、AIの影響がどんどんと大きくなる中、GTMの世界でもこれまでの方程式が機能しなくなってきている、とForresterは語ります。GTM特異点は単一の原因で起きているわけではなく、マクロ経済の不確実性、地政学的緊張、リモートとハイブリッドが混在する働き方によるチームの分離などの複数の圧力が同時に作用し、それをAIがさらに加速させているという構造です。

さらにもっと根本的な変化はバイヤー側で起きています。購買担当者のの94%がすでに購買プロセスのどこかで回答エンジンとAIを使っており、AIはバイヤーにとって第一のツールになっています。その影響力は企業ウェブサイトや営業担当者、イベントの2倍にもなるそうです。去年のサミットでも発表されていたように平均的な購買グループは13人、その意思決定に影響を与える外部のネットワークがさらに9人もいるという構造の中で、購買担当者はリスクを避けてパイロットやトライアルを求めるようになり、販売サイクルはどんどん長期化しています。

ARCフレームワーク

ForresterはこのGTMの特異点を乗り越えうる組織に共通する原則として、Augmenting(拡張)、Resilience(レジリエンス)、Collaborative(協働)の三つを挙げていました。

  • Augmenting 拡張
    人間とAIの能力を組み合わせる実践のことをさします。AIが人間の仕事をすべて置き換えるということではなく、人間がAIをつかうことでよりパワフルになる、という捉え方です。
  • Resilience レジリエンス
    市場のショックを吸収しながらプロセスを適応させる能力です。多くの組織はGTM計画を年に一度しか更新していませんが、昨今のバイヤー行動の変化速度を考えると、こうした静的な計画ではもう対応できません。

  • Collaborative 協働
    マーケティング、営業、CS、製品の各チームを意図的に連携させることをさします。Alteryx社ではCEO、CFO、法務、プロダクト、テクノロジーの各責任者がCRO主導で90分のミーティングを毎週開催しているそうです。しっかりときょうどうが経営アジェンダとして組み込まれている例ですね。

視認性の空白

私たちも様々なところで発信している点ですが、市場側で起きている最大の構造変化が視認性の空白(visibility vacuum)だとForresterは問題定義しています。

2024年、Googleでは1日150億回の検索があり、平日のB2B検索だけで20億回、クリック率40%、つまり1日8億回ものファーストパーティエンゲージメントが発生していました。それが今では、従来検索からのトラフィックはすでに25〜35%減少しています。回答エンジンへの問い合わせは25%増加していて、しかもそれらはゼロクリックで完結しています。Forresterの予測ではB2Bのオーガニックトラフィックは今後12−18ヶ月のうちに50〜75%減少するとされています。

一方で回答エンジン経由でウェブサイトに到達したバイヤーは、すでに多くの情報を得たうえで来ているのでコンバージョン率は3〜4倍高くなります。つまり質は上がるけれど量は減る、というわけですね。しかし本質的な問題はトラフィックが減ることではなく、視認性の喪失です。マーケターが自分たちの製品やブランドが市場でどう見られているのかを把握できなくなる、購買プロセスのほとんどが見えなくなり、コントロールが効かなくなるということが根底の課題になっています、

視認性を回復する5つのスキル

このポイントに対し、Forresterは以下の5つの具体的な対応策を共有していました。

  1. 視認性を測定してKPIにする
    数値で測れないものは向上する術もありません。まずは視認性を可視化するために必要なプロセスやツールを整えることを第一ステップとするべきだ、と彼らは言います。たとえば、SAP社は「Visibility Suite」というものを構築し、関心トピックのプロンプトを複数の回答エンジンに投げて、自社の言及頻度、競合の言及頻度、ソースとして引用された頻度をスコア化しているそうです。従来の検索ボリュームのような値で分析するのではなく確率分布として視認性を捉え、このデータをもとに施策を再配分して、LLMからのトラフィックを400%増やしたといいます。
  2. 購買担当者のクエリーを分析する
    従来のキーワード検索ではクエリーの長さは平均が3〜4語(英語の場合)でしたが、回答エンジンへのプロンプトは平均15〜23語まで増えているそうです。つまり、これを分析することで大変多くのインサイトを得ることができます。Thompson Reuters社はバイヤージャーニーをモデル化したうえで、テクノロジー・ビジネス・財務に加えて会社規模や業種といった文脈を追加し、広範なプロンプトセットを構築したそうです。
  3. LLMに適切な方法でコンテンツを整備する
    もう多くの企業で取り組みが進んでいるところだと思いますが、AIが理解しやすい明確なコンテンツ構成やスキーマの活用などが必要不可欠です。曖昧なマーケティングメッセージはもう封印して、AIがわかりやすいファクトや数値を前面に出すようにしていかなければいけません。
  4. 人間の声を優先する
    米国において回答エンジンが情報源として最も好むのはRedditやG2です。これは彼らに権威があるからではなく、投稿者の感情的なエンゲージメントが信頼を生み、それをモデルが検出しているからだといいます。日本においても類似のレビューサイトなどを含め、生の声をしっかり分析し対応することが求められるでしょう。
  5. 部門横断で取り組む
    AEOは特定部門の専門業務ではなく、全社的なオペレーティングモデルの問題として再定義される必要があります。AIへの対策はマーケティング部門内だけで完結できるものではありません。購買担当者のほとんどの購買プロセスがAIから始まる今、AIが自社や自社製品の間違った情報を発信している場合は大きな損失につながります。しっかりモニタリングしながら、部門横断的に対応を行うことが求められます。

日本市場への適用

これまで、欧米のマーケティングは日本の10年、15年先を行っていると言われていました。しかしAIの登場でほぼ時差なしにこれらが日本にも適用されるようになっています。これまでのギャップはそのままにAIやそれに伴う購買行動の変化が押し寄せてくる中、根本的に組織の運営体制やマーケティング戦略を見直す時に来ていると言えるでしょう。その上でこれまでよりさらにマーケティング、営業、CS、プロダクトの連携が求められることは間違いありません。

GTMの特異点とは市場自体が壊れたのではなく、市場を捉えるモデルが壊れたということだと思います。
そしてモデルを更新する作業はツール導入で完結するものではなく、測定指標、組織構造、マーケティング戦略、マーケティングコンテンツ、人間とAIの役割分担、などすべてに及びます。今回のサミットの意義は、この再設計の射程を業界全体で言語化したことにあったのではないかと思いました。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてインターン終了後、渡米。シリコンバレーのEd Tech企業、Courseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に「マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識」(MarkeZine BOOKS)と、レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識(MarkeZine BOOKS)がある。

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ぼやけた白い円形の点。