ブランディングとデマンドジェネレーションの統合

May 27, 2026

先月参加したForrester B2B Summitの中でも、マーケティング組織のあり方や予算の投資方法を根本的に考え直すきっかけになったトピックが、ブランディングとデマンドジェネレーションのバランスです。Forresterが2026年2月に発表したリサーチ「Building Preference Is The Key To Winning B2B Buyers」によれば、B2Bバイヤーの68%は購買プロセスを開始する時点ですでに本命のベンダーを心に決めており、そしてその本命が最終的に選ばれる確率は80%にのぼります

さらに同社の別の調査では、92%のバイヤーが購買プロセスの開始時点ですでに非公式のショートリストを作り終えていることも分かっています。つまり、買い手のジャーニーはもはや選定のプロセスではなく、ショートリストの確認のプロセスに変質しているのです。

そんななか問題は、売り手側の認識がこの現実に追いついていないことです。Forresterの2025年B2B Brand and Communications Surveyによれば、「バイヤーは購買プロセスの開始時点で明確なベンダー選好を持っている」と認識しているB2Bマーケティングリーダーはわずか19%。残る81%は、自分たちがまだ「市場のバイヤーに影響を与えられる」と信じて施策を組んでいます。この認識ギャップが、予算配分の歪みを生んでいるのです。

インテントデータ、リードスコアリング、リターゲティング、シーケンス自動化といったパフォーマンスマーケティングのスタックは重要ですが、すでに選好が形成されたあとの段階でしか機能しません。買い手がショートリストを作り終える前に自社をその中に入れておかなければ、どれだけ精緻なデマンド施策を回しても、勝率はほとんど動かないということです。

AI時代の購買行動データもこの傾向に拍車をかけていることを示しています。B2Bマーケティング調査会社Wynterが2026年1月に発表した、ミッドマーケットB2B SaaS企業のCMO 101名を対象とした調査によれば、ベンダー発見にAIツールを使うCMOは2024年の0%から、2025年に24%、そして2026年には84%へと3.5倍に増えました。68%のCMOはGoogleで検索する前にChatGPTやClaude、Perplexityでカテゴリ全体の見取り図を確認し、65%はプライベートコミュニティでベンダー探索を始めると回答しています。Wynter自身が「ショートリストは、あなたがコントロールできないチャットウィンドウの中で作られている」と表現しているこの状況は、買い手の意思決定の重心が、売り手から見える領域の外側へとさらに押し出されつつあることを意味します。

ブランドとデマンドの分業が、そのまま成長の障害になる

ここで突きつけられているのは、B2Bマーケティングの組織構造そのものです。ブランドチームとデマンドチームはそれぞれ別の予算、別のキャンペーン、別の指標で動き、両者を貫く共通のゴールが存在しない状況が一般的でした。ブランドは認知やシェア・オブ・ボイスを追い、デマンドはMQLやパイプライン金額を追う。両者の橋渡しがされないまま、それぞれが自分の指標を最適化していたのです。

しかし、購買決定の大半がフォーマルな購買プロセスの外側で形成されるようになった今、この分業はそのまま成長の障害になります。ブランディングとデマンドジェネレーション活動を統合し、顧客のプリファレンスを獲得することを共通のゴールに据え、両チームが連携してその指標を動かすことが求められます。

ここでいうプリファレンスとは、単なる認知でも、活発な検討段階での比較優位でもありません。買い手が「このカテゴリで何かを買うとしたら、まずあそこを見る」と無意識に思い浮かべる、その時点での第一想起のことです。ブランド施策はこのプリファレンスを形成する役割を担い、デマンド施策は形成されたプリファレンスを商談・受注に変換する役割を担う。この2つを同じゴールの下に並べ直すことが、統合の本質です。

計測の再設計

統合を実現する際に避けて通れないのが計測の再設計です。プリファレンスは認知のように到達数で測れるものでも、デマンドのように獲得リード数で測れるものでもありません。買い手側の関心と行動が、自社のどの領域に、どの強度で、どれくらいの期間にわたって向けられているか。これを継続的に捉える仕組みが必要になります。そのために有効なのが、ファーストパーティシグナルとサードパーティシグナルの統合です。

ファーストパーティシグナルは、自社サイトやプロダクト、メール、ウェビナーなどの自社チャネル上で観測できる行動データを指します。特定のアカウントの複数の関係者が、製品ページやROI試算ツール、料金ページに繰り返しアクセスしているのであれば、それは購買プロセスの初期段階で自社が既にショートリストに入っている可能性を示します。ファーストパーティの強みは、シグナルの質が高く、自社の意図したコンテンツに対する反応として読めることです。

一方サードパーティシグナルは、自社の観測範囲の外側、つまりレビューサイト、業界メディア、検索行動、コミュニティでの言及など、外部の情報接触行動を指します。買い手が自社サイトに来る前にどんなテーマを調べているか、どの競合と比較されているか、どのカテゴリ用語で検索しているか。サードパーティの強みは、購買プロセスの最も初期、まだ売り手側に名乗りを上げる前の段階の関心を捉えられることです。

この2種類のシグナルは、捉えられる時期と粒度が異なるため、片方だけでは買い手の動きの全体像は見えません。サードパーティで早期の関心の立ち上がりを捉え、ファーストパーティでショートリストへの定着を確認する。両方を統合して初めて、買い手が自社に向けているプリファレンスの強さと持続性が立体的に見えてきます。

購買グループ単位でシグナルを捉える

Forresterの最新調査では、典型的なB2Bの購買決定には社内13名、社外9名、計22名のステークホルダーが関わるとされています。MQLやリードスコアリングが個人を起点に組まれてきたのは、計測がしやすかったからにすぎず、購買意思決定の実態を反映しているわけではありません。一人のリードがどれだけ熱心にコンテンツを消費していても、その人がバイインググループ内で意思決定に影響を持たなければ、商談にはつながらないからです。

購買グループ単位でのシグナル集約は、ABMの発想と直結します。アカウントを軸に据え、そのアカウント内の複数の関係者がそれぞれどんなシグナルを発しているかを束ねて見ることで、「このアカウントは今、購買プロセスのどの段階にいて、自社はそのプリファレンスの中でどの位置にいるか」を判断できるようになります。これは、リード単位のスコアリングでは絶対に見えない景色です。

ROIの可視化が、ブランド投資を後回しにしない条件

計測の再設計のもうひとつの目的は、ブランド投資のROIを可視化することです。同社の調査では、B2Bマーケティングリーダーのうちブランド投資のROIを測定できると答えたのはわずか25%。この測定の弱さこそが、ブランドへの投資が後回しにされ続けてきた最大の理由です。

統合シグナルを下流の指標、つまりコンバージョン率、商談スピード、勝率、平均取引金額などと紐づけて分析することで、「サードパーティで早期にシグナルが立ち上がっていたアカウントは、商談化したときの勝率がX%高い」「ファーストパーティでショートリスト入りシグナルが見えていたアカウントは、商談スピードがY%早い」といった因果関係が見えるようになります。

ブランド投資の効果がパイプラインのどこに、どれくらいの時間差で現れるかが定量的に説明できるようになれば、CFOや経営陣に対しても、ブランドとデマンドを統合した予算配分の必要性を提案できるようになります。

新年度の予算がまだ柔らかいうちに、ぜひ自社のブランディング・デマンド予算の配分を振り返ってみてください。買い手が動き出す前の段階で、自社はどのポジションに立てているか。デマンドの数字が良くても、それがもう決まった戦いの確認作業にすぎないなら、長期的な成長エンジンとしては機能しません。

買い手の意思決定の重心は、AIツールやプライベートコミュニティへと、売り手から見えない領域へますます移動しつつあります。だからこそ、ブランドとデマンドという長年の対立軸を一度解体し、プリファレンスという共通のゴールの下に統合し、それを支える計測基盤を作り直すことが、これからの数年のB2Bマーケティングを左右するのではないでしょうか。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてインターン終了後、渡米。シリコンバレーのEd Tech企業、Courseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に「マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識」(MarkeZine BOOKS)と、レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識(MarkeZine BOOKS)がある。

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