ブランディングROI

最終アップデート: 
December 6, 2022

直接的な費用対効果が見えにくいブランディング。どのように投資額を決めるべきなのでしょうか?ブランディングROIの計算方法を理解することで、ブランディングが価値を生むメカニズムを解明していきましょう。

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ブランドエクイティがビジネスパフォーマンスを高める

「強いブランド力」を持つことができると収益に大きなインパクトをもたらします。マッキンゼーの14年にわたる研究によると、トップクラスと言われるブランドの株主還元率は、世界市場平均を74%も上回っていることが明らかになりました。強いブランド力を持つことには以下のようなメリットがあります。

  • コモディティ化の回避
  • プレミアム価格化
  • 販売サイクルの短縮
  • 販売量の増加
  • 優秀な人材の獲得と維持
  • 社内文化の構築
  • カスタマーエクスペリエンスの向上

ブランドエクイティ(顧客が現在および将来にわたって、特定ブランドを他のブランドと比較して選んだり、そのブランド製品に多くの対価を支払ったりする傾向のこと)を高めることが一般的になりつつあります。カンターグループのミルウォードブラウン社の調査によると、強いブランドをもつ企業は平均3倍の販売量と13%の価格プレミアム(顧客があるブランドに対して他の製品より余分にお金を支払ってもよいと考えている価格)を達成しています。

一方で、自社ブランドが与える影響を特定のKPIを用いて正しく測定しない企業も散見されます。目先の利益に集中し、強力なブランドが長期にわたってもたらす指数関数的な影響を考慮しないと、短期的なマーケティング戦術にリソースが偏り、ブランドエクイティの向上に十分な投資が行われないことになります。ではそういった企業において、ブランドエクイティに対する投資の優先度が上がらないのはなぜでしょうか?「強いブランド力」が具体的に何を指しているのかが曖昧であり、そこに価値を感じるのが難しいからではないでしょうか。

ブランドの強さとは?

以下3つのカテゴリーで高いスコアを獲得することで「ブランド力の強さ」を定義しています。

  1. 関連性と共鳴性:
    ステークホルダーのニーズを満たし、感情的な結びつきを構築しているブランドであること
  2. 他社との差別化
    独自性があり、他社をリードし競合と一線を画しているブランドであること
  3. トップオブマインド認知(TOMA)
    トップオブマインドで認知されている記憶に残るブランドであること

ブランドの関連性、差別化、TOMAの各スコアが高いと価格競争力が発揮されます。価格競争力は、これら3つの側面において高いスコアを獲得した結果であり、ブランディングのROIを計算する上で重要な指標となります。価格競争力に影響を与える3つの変数は以下の通りです。

  1. ブランドパワー:
    顧客が競合他社よりも自社を選び取って購入するという行動に基づいて獲得できるマーケットシェア
  2. ブランドプレミアム:
    顧客が競合他社よりも自社に対してより多くのお金を支払うという性質に基づいて、そのブランドが課すことのできる価格
  3. ブランドポテンシャル:
    現在の顧客認識に基づいて、今後12ヶ月間にそのブランドがシェアを拡大する可能性

ブランドが競合他社からどれだけ差別化されているかということがブランドポテンシャルの鍵であるということを鑑みると、企業は優先的に自社のブランド力に力を入れるべきと言えるでしょう。

ブランドKPI

マーケティング指標を用いると即時的にパフォーマンスを測ることができると考える企業が多いため、短期的な指標のみに留まり誤解してしまうリスクがあります。一方、ブランディング指標については「ブランディングの投資対効果をどのように測定するのか」「ブランドパワー、プレミアム、ポテンシャルをどのように評価するのか」を明確に理解していないが故に、投資に踏み切れないことがあります。そのような場合には、ROIとその測定方法を明確にすることが必要です。

ブランドKPIを3つのカテゴリーに分類することで、このプロセスが分かりやすくなります。

  1. ブランドビヘイビア(行動)
  2. ブランドパーセプション(認知)
  3. ブランドパフォーマンス

①ブランドビヘイビア(行動)の測定

ブランドビヘイビアは社内ブランディングに関連する測定カテゴリーであり、ビジネス戦略が企業の根幹部分(理念など)と一致しているかを判断する役割を持ちます。ブランドビヘイビアの指標が高いということはすなわち、従業員のエンゲージメントを高く保つために、企業が社内連携に取り組んでいるということを表しています。このカテゴリで用いるKPIは、どのような文化で従業員のエンゲージメントを高めていきたいかによって大きく異なりますが、以下の例をご参考ください。

  • 従業員が自社ブランドを正確に表現する能力
  • 企業の価値観に基づく行動の一貫性
  • 従業員が生成するコンテンツやソーシャルシェアへの積極的な参加
  • 顧客満足度/苦情

これらのKPI測定には、インタビューや調査、分析など、さまざまな手法が用いられます。データを収集したら改善が必要な領域と実行可能なステップを決定しましょう。ブランドビヘイビアが継続的に改善されるように、定期的なKPI達成状況のチェックを行うことが重要です。

②ブランドパーセプション(認知度)の測定

ブランドパーセプションのカテゴリーでは、ブランドに対する顧客の認知度と感情を測定します。この指標は、顧客エンゲージメントの有効性を示すもので、KPIは認知と検討の2つのカテゴリーに分類されます。

1. 認知のKPI

  • 認知度
  • ブランドリコール
  • トラフィック
  • コミュニティサイズ
  • リーチ
  • インプレッション数

認知度やブランドリコール度は、トラフィック分析(直接アクセスや検索ボリュームを時系列で調べる)を通じて大まかに把握することができますが、正確性を確保するためには、インタビューやアンケートによる大規模かつ詳細な顧客調査が必要です。

2. 検討のKPI

  • 差別化要素
  • 顧客との関連性
  • 製品・サービスの評価
  • 感じとられている品質
  • 購買意欲

検討KPIを測定するためのデータ収集には、ソーシャルリスニングツールが有効です。顧客のブランドに対するリスペクトや感じ取られている品質を明らかにするだけでなく、ブランドが言及された数をモニタリングすることによってパーセプションデータを取得することができます。インタビューや調査特有のバイアスがかかりにくいことも魅力の一つでしょう。

③ブランドパフォーマンスの測定

ブランドパフォーマンスKPIは、顧客の行動がブランドパーセプションにどのように影響されるかを示すものです。ここでは1回の購買行動と、ブランドロイヤルティに相当する行動、例えばリピート購入やブランドアンバサダー行動(他者への紹介)の両方を確認する必要があり、ブランドパフォーマンスのKPIには、購入、ロイヤルティ、ファイナンスの3つのカテゴリーがあります。

1. 購買KPI

  • リード数
  • 売上高
  • 成約率
  • 優先度
  • 価格プレミアム

2. ロイヤリティKPI

  • 顧客満足度
  • リピート購入
  • 紹介
  • リテンション
  • LTV(顧客生涯価値)

3. ファイナンスKPI

  • マーケットシェア
  • 売上高
  • 収益性
  • 獲得単価
  • ブランド評価

ファイナンスKPIは特にブランディングのROIを証明します。マーケットシェア、売上高、収益性、事業評価額の増加、顧客獲得コストの減少を見れば、その企業が強いブランドを持っているかどうか明確に把握することができるのです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。ブランドエクイティとブランディングROIの測定は継続的に行ってこそ価値を生むものです。ブランディングのROIを測定するプロセスは複雑ですが、優先順位をつけるところから始めてみましょう。まずはKPIを3~6個に絞り込むのがおすすめです。その際、実用的であるかどうかを必ず念頭に置いて、ビジネス上の意思決定を左右するKPIを選択しましょう。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

大学在学中に株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてマーケティングインターン終了後、渡米。大学院にてマーケティングを学んだ後シリコンバレーに移りEd Techのスタートアップ企業、Couseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に『マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識』(MarkeZine BOOKS)がある。