AIを企業の成長エンジンとするためのネクストステップ――アビームコンサルティングが描く、リソース制約を解除し収益拡大を実現するCX/Revenue 変革

日本発・アジア発のグローバルコンサルティングファームとして企業変革を支援してきたアビームコンサルティング株式会社。今回は、同社Principal、Enterprise Transformation Business Unit CX Sector Leadの磯貝智崇氏と、同CX Sector Senior Managerの竹谷伸一氏に、クラウドからAIへと続く企業変革の変遷と、AI時代に顧客起点で企業の仕組みをどう再設計していくのかを伺った。

最終更新:September 4, 2026

AIやデジタルへの投資効果を、「人の作業が何時間減るか」「どれだけコストを削減できるか」で説明すること。この物差しは、これまでは有効に機能してきた。しかし、テクノロジーの導入コスト自体が上昇し、企業を取り巻く環境も大きく変化する中で、漠然とした工数削減効果だけではAIに対する投資判断を支えきれない場面が増えている。

いま重要になっているのは、工数やコストをどれだけ削減できるかに加えて、テクノロジーによって企業が抱える「リソースの制約」をどこまで解除し、これまでできなかった活動や新たな顧客価値の創出につなげられるかという視点だ。

同時に、CRMやCXの捉え方も変わりつつある。顧客接点だけを最適化するのではなく、顧客にどのような価値を届けるのかを起点に、マーケティングや営業、カスタマーサービスといったフロントから、ミドル・バックオフィスまでを一つの流れとして捉える。AIによって各工程の境界が曖昧になるほど、CXの変革の対象はバリューチェーン全体へと広がっていく。

日本発・アジア発のグローバルコンサルティングファームとして企業変革を支援してきたアビームコンサルティング株式会社。今回は、同社Principal、Enterprise Transformation Business Unit CX Sector Leadの磯貝智崇氏と、同CX Sector Senior Managerの竹谷伸一氏に、クラウドからAIへと続く企業変革の変遷と、AI時代に顧客起点で企業の仕組みをどう再設計していくのかを伺った。

話の軸となったのは、二つの「捉え直し」だ。一つは、AI投資を「どれだけ工数を削減できるか」だけでなく、「企業が抱えるリソース制約をどこまで解除できるか」という視点から捉え直すこと。もう一つは、CRMやCXを顧客接点の改善に閉じた取り組みではなく、顧客価値を起点に、フロントからミドル・バックまでをつなぐ企業変革として捉え直すことだ。

リソース制約が外れていく先で、加速度的に増加していくデータを経営の意思決定に活用し、業務オペレーションの変革を遂行していく組織としてのケイパビリティーがボトルネックとなっていく。その変革を一社の中だけで閉じず、バリューチェーン全体とパートナーとのエコシステムへどう広げていくのか。本記事では、AI時代の企業変革のあり方を紐解いていく。

 

この記事の要点

  1. 労働人口の減少が進む中、AI投資は単なる工数削減ではなく、事業成長や新たな価値創出に向けて企業のリソース制約をどこまで解除できるかという視点で捉え直す
  2. リソース制約が解除されるほど、ボトルネックは次の工程へ移る。企業は顧客接点の改善に留まらず、ミドル・バックを含むバリューチェーン全体を俯瞰した変革を進める必要がある
  3. AIの進化が加速する中、過去の成功事例を追うアプローチには限界があり、エコシステムの中で新たな課題と価値を見出し続けることが求められる

 

CRMからCXへ
― 顧客中心の射程が、バリューチェーン全体に広がった

―― まず、アビームコンサルティングさんの事業の全体像と、最近の注力ポイントからお聞かせください。

 

磯貝 当社は、日本発・アジア発のグローバルファームです。SAPをはじめとした基幹システム領域で培った知見を強みに、戦略立案から業務改革、システム導入、定着・運用まで一貫して支援しています。

磯貝 智崇氏 アビームコンサルティング株式会社 Principal Enterprise Transformation Business Unit CX Sector Lead

磯貝 智崇氏 アビームコンサルティング株式会社 Principal Enterprise Transformation Business Unit CX Sector Lead

近年は、社会情勢やAIをはじめとするテクノロジーの変化が非常に激しくなっています。そうした中で、グローバルで確立されたベストプラクティスをそのまま提供するだけでは、企業変革を成し遂げることはできません。お客様と共創関係をつくりながら、どう改革を乗り切るか。そこから先に、新しい世界観をどう一緒につくっていくか。この「共創のモデル」に、いま非常に力を入れています。

私と竹谷が所属しているのは、CXという組織です。もともとはCRMという枠組みでやっていました。

 

―― CRMという言葉が指す範囲も、この10年で大きく変わりましたね。

磯貝 そうですね。かつて、私がコンサルタントになりたての頃は、コールセンターの立ち上げがCRMの中心的なテーマでした。その後は営業改革やマーケティングオートメーションやカスタマーサクセスなど、さまざまな領域での取り組みがトレンドとして出ては消えていきました。これらのCRMのテーマは顧客のタッチポイントをいかに効率化・改善するかという取り組みであったと思います。

しかし、最終的な消費者・生活者にきちんと満足のいく価値を届けるためには、タッチポイントの改革だけでは十分ではありません。バリューチェーン全体を顧客中心に据え、その目線で企業改革をしていかなければ真の「より良い顧客経験(Customer Experience)」は実現できないと我々は考えます。そのような背景でセクターの名称も目指す方向性に合わせてCXへと変えてきました。

そこにAIが入ってくると、CXが押さえるべき範囲はさらに広がります。タッチポイントからミドル、バックまでが地続きになり、どこまでがCRM・CXで、どこからがサプライチェーンなのかという境界線は、かなり曖昧になってきています。曖昧な境界線の中でさまざまな事業部門やコーポレート部門が連動し一貫した良い顧客経験を提供するためには、「どのような価値を提供するのか」、「どのような顧客経験を与えるのか」を一つの軸として持ちながら顧客経験や業務オペレーションをデザインしていく必要があると思っています。RevOpsやMOps※1といった概念も取り入れながら、顧客価値・顧客経験という軸をしっかりと持つ。そのうえで、テクノロジー、組織、オペレーションの生産性や競争力を高め、持続的な事業成長を目指していく。

いま取り組んでいるのは、そういうことです。

 

なぜ「コストが減ります」では説明がつかなくなったのか

―― この10年ほどで、支援の内容そのものも変わってきたのではないでしょうか。

磯貝 大きな背景としては、労働人口の減少、人件費の停滞、円安といったさまざまな要因があると思っているのですが、現在日本のマーケットの中ではAIやSaaSを中心としたテクノロジーを活用した改革に対する逆風がそれらの利用コスト面から強くなってきているのではないかと思っています。

以前であれば、テクノロジー活用のROIは、ある程度のコスト削減額と、一部の定性的な評価で説明をすることができました。ですが、テクノロジーを使うためのコスト自体が上がっていく中で、単純に「コストが削減されます」という話だけでは、もう経営に説明ができなくなってきている。また、理論的には従業員の余剰時間を削減することができても実際に人員削減ができるわけではないという日本の雇用環境に頭を悩ます企業も多いです。

 

―― 一方で、トップラインには効いているはずですよね。

磯貝 ええ。テクノロジー活用によるトップライン・ボトムラインへのポジティブな影響は与えられているはずです。ところが、それをロジカルに経営へ説明できない。ここがデジタル投資の必要性を頭で理解しながらも腰を重くしている要因だと考えます。

このような流れの中で、グローバルのSaaSソリューションの利用を諦める、といった流れも出てきているように感じます。確かに、ランニングコストが上がっていくSaaSソリューションの利用をやめることによりランニングコストは減るかもしれませんが、もともと見えていなかったトップライン、ボトムラインにどのように影響をしていくのか?今後のテクノロジーの進歩に自社の情報システムはついていけるのか?このような評価をせずに自分たちが見えている範囲の中で意思決定をすることは、中長期的にグローバルで見た際の生産性や競争力を削ぐことになってしまうのではないかと危険性を感じています。「テクノロジーがトップラインにどのように効いているのか」この点をしっかりと可視化をしていくことが、システム部門・事業部門に求められていることなのではないでしょうか。

とはいえこれは、一足飛びには進めません。その会社ごとのアーキテクチャ、企業文化、組織を踏まえてロードマップを引き、実現できるところから確実に進めていく。それが大きな流れだと考えています。

クラウドが広げた企業の選択肢 ─ AIにも通じる変化の本質

―― いまのAIの議論を考えるうえで、過去の変化から学べることはありますか。

竹谷 クラウドが広がり始めた頃を振り返ると、いまのAIにも通じることがあります。当時のITは、大規模な基幹システムと、現場がExcelやAccessなどで工夫するEUCに大きく分かれていました。その中間を埋めたのがクラウドです。

クラウドによって、初期投資を抑えながら小さく始め、必要に応じて拡張することができるようになった。すると、それまで投資対効果の説明が難しかったSFA※2やデジタルマーケティングのような領域にも、企業が取り組みやすくなりました。

竹谷 伸一氏 アビームコンサルティング株式会社  Enterprise Transformation Business Unit CX Sector Senior Manager

竹谷 伸一氏 アビームコンサルティング株式会社 Enterprise Transformation Business Unit CX Sector Senior Manager

―― そこから引き出せる教訓とは、どのようなものでしょう。

竹谷 クラウドがもたらした最大の変化は、それまで実行できなかった取り組みが現実的な選択肢になったことです。初期投資やシステム導入の制約が下がったことで、企業が試せることの幅が広がりました。

いま起きているAIの議論も、この延長線上にあります。AIによって、これまで企業が抱えてきたどのリソース制約を解除できるのか。そして、解除されたリソースをどこへ振り向ければ、新たな顧客価値や収益につながるのか。この二つをセットで考えることが、AI投資を考えるうえで重要になっています。

 

AI投資の価値をどう測るか ─ 工数削減から「事業成長のためのリソース制約解除」へ

―― 一方で、AI導入の投資効果を定量的に説明しようとすると、どうしても「何人分の工数が減るか」というROIに議論が寄りがちです。

竹谷 そうですね。工数削減は効果を数字で捉えやすく、投資額との比較もしやすい。だからこそ、これまでのIT投資では、人が担ってきた業務をデジタルでどこまで代替できるかが、効果を説明するうえで重要な物差しになってきました。

ただ、それだけでは説明がつかないことが、いま多々起きています。特にレベニュー領域では、テクノロジーによって生まれる価値が、単純な工数削減だけではなく、これまでアプローチできなかった顧客への対応や、営業・マーケティング活動の量と質の向上として現れます。そこまで含めて投資効果を捉える必要が出てきています。

―― では、どう説明するのでしょうか。

竹谷 AIやデジタルを語るとき、人がやっていたことをどれだけ代替できるかというKPIは、相変わらず必要です。ただ最近は、「時間の置き換え」とは言わなくなりました。これは完全に、リソースの制約を解除するための仕掛けである、という説明を始めています。リソース制約の解除とは、投じた時間がどれだけ削れたかではなく、その仕事にかけられる総量の上限がどれだけ上がったかで効果を測る、という考え方です。

たとえば人の代替率だけで見ると、8時間労働のうち1時間を削れば8分の1程度の人件費が削減できる、リソースが浮く、という計算になります。でも、そうは考えない。1人のオペレーターや営業が担っていた業務をデジタルで丸ごと引き取れるなら、それは企業のリソース、つまり使い回せる資源が増えたとカウントする。増えた分は、人を減らすために使うのではありません。これまで手が回らなかった既存顧客のフォローや、現場からの改善提案といった仕事に振り向けられる。その増えたリソースをどう使えるかにコンサルテーションの軸足を向けることが、いま必要になってきていると常々感じています。

 

―― それは、クラウドからAIへのシフトの中で新たに出てきた論点なのでしょうか。

竹谷 新しく出てきたというより、浮かび上がってきたということですね。リソースの制約をどう解除するかは、もともと右肩上がりの業界が頭を悩ませてきたところです。人員をもっと増やせればもっと稼げるのに、という世界は少なからずある。

ただ、人を増やし続ける限界値はきっとあるはずなんです。製造業の工場を別にすれば、本社機能をいくらでも増やせる企業はありません。一方で、グローバルの最先端を行く企業は、少ない人数で考えられないくらいの売上や利益を稼ぎ出している。端的に言えば、そこを真似しようじゃないか、というのが答えの一つになるのだろうと思います。DXが本来目指してきた徹底的なデジタル化も、リソース制約を解除するという観点から捉え直すことができるのではないでしょうか。

 

―― デジタルマーケティングやSFAも、その文脈で読み直せますね。

竹谷 まさにそうです。デジタルマーケティングは、少人数のマーケティング部門が顧客の反応をダイレクトに得る、一丁目一番地のツールになった時期がありました。広告を打ってデジタルで接点が入ってくると、誰がどういうタッチポイントで入ってきたかがトラッキングでき、興味関心まで確認できる。それまでは対面やコールセンターから拾わざるを得なかったVoC※3やニーズの情報に、密度はともかく、かなり広範にアプローチできるようになった。そうすると売上は上がるわけです。なぜなら、リソース制約が解除されたから。

SFAも同じです。一人ひとりの営業が個別に考えて訪問やアプローチをしていたところを、パイプライン※4を可視化し、組織として案件に対処する形へ変えていった。アクションの数や当て方を効率化することで、より多くの商談を確度高く取れるようにした。独立して動いていた営業を集合させ、チームで動かすことでリソースの制約を最大限に押し広げた、という捉え方ができます。

その説明でいくと、いまのAIも同じ使い方をするべきなんです。AI導入やDXで効果が薄いと判断されているところは、人の時間軸で考えて、そのバーの長さを縮める方向でツールを使いたがっている。デジタルやAIは、それをどう倍加させるかという考え方をしなければいけない。1人がデジタルツールを使えば従来の延長線では考えられないほど、できる仕事の総量が増える。相手がいる限り最大値まで業務を回せる。そういう使い方をすれば効果は最大化されます。

同じ組織の中でも、その価値観やツールの良さが伝わっていない部分があります。価値がどこにあるかを知ってもらうこと、つまりレベニューの上げ方をまず知っていただくところから始めれば、打てる手はいまAIを中心に豊富にありますから、比較的受け入れて理解されやすくなると考えています。

次のリミットはどこにあるか ― 経営の意思決定キャパシティと、フィジカルAI

―― 制約を外していった先に、次のボトルネックはどこに現れるのでしょうか。

磯貝 AIの使い方自体も、まだ成長途上だと思っています。リソースのリミットを外すという話はある一方で、では今後ビジネスをどう発展させるのか。そこときちんとリンクした形で、コンテキストも整備されていかないといけない。多くの企業が日常的に使っているAIとエンタープライズにおけるAIの違いに気づきつつある段階なのではないでしょうか。

このような過渡期の中で、AIの活用による経営の意思決定や日々の業務オペレーションの変化が、実感としても数字としても表れてこないと、AIへの投資そのものがボトルネックだと誤認されてしまうリスクがあると思います。言い古された言葉ではありますが、データドリブンでリアルタイムに経営の状況を可視化し、将来をシミュレーションしていく。そして組織や業務のオペレーションも柔軟かつタイムリーに組み替えていくことが必要です。そのための組織のケイパビリティーや組織文化が次のボトルネックとして現れてくると思います。AIを前提に組み立てられた事業と、人の代替でAIを活用していく企業では収益構造そのものが変わっていくため、このボトルネックがもたらす結果はこれまで以上に大きな影響を及ぼすものだと思っています。

竹谷 まさにそのとおりで、エンタープライズの現場でリミットをどう解除するかを考えると、DXでやらなければいけないことは相変わらず残っています。そのうえで、次に何がリミットになるのかを想像しなければいけない。私は二つあると思っています。

一つは、経営層の意思決定のキャパシティの限界です。かつては、全国を一つの市場として見られる企業は限られていました。小売などは特に、東西で経済圏が分かれていた時代もありました。企業が全国規模、グローバル規模へと拡大できた背景の一つには、テクノロジーによって情報を集約し、経営層の意思決定が及ぶ範囲が拡張されたことがあるのではないか、という仮説を持っています。その変化を支えた仕組みの一つがERP※5です。集めたデータからBI※6をつくり、経営判断に必要な情報を可視化する仕組みが広がっていきました。

通信がなかった時代は、月に一度、全国の支店長を本社に集めて報告会をして情報共有する、というスピード感でした。ファクトがあるのかないのかも分からないまま判断していた、という話も過去には残っています。

―― そのDXの延長線上に、いまがある。

竹谷 ええ。ただ、その仕組みだけでは足りなくなってきているのではないかと思っています。例えば小売や金融のように拠点が数千、数万に及ぶ規模になると、いくら優秀な経営者でも、一人の人間の頭の中でさばける分量を超えてくる。そうするとサマリーしなければいけない。サマリーした結果、ディテールが失われていく。個々の顧客や現場にあった情報が、だんだん平均化されてしまう。こういうことが実際に起きているのではないかと。

もう一度、現場レベル・顧客レベルで解像度を上げて意思決定するにはどうすればいいか。経営層の判断基準や考え方を学習させたAIエージェントを複数配置し、データ分析や複数の観点から情報を検証・整理することで、意思決定を支援する能力を拡張していく。発展的なBI、意思決定のための情報の使い方という意味で、ここをスケールアウトさせていかないといけない。これが一つです。

 

―― もう一つは。

竹谷 現場です。いまのAIは、まだ非対面というか、ソフトウェアの世界の中で閉じているところがあります。LLM※7によって言葉の壁が解除され、テキストコミュニケーションであれば定型的なところは人と違和感ないレベルでさばけるようになりましたし、下地の利かせ方によっては、場合によっては人よりも寄り添った言葉を返してくれるものも出てきています。

これがどんどんリアルに近づいていくと思っています。私は以前コールセンター系をやっていたので、ボイス系、そして店舗接客やリモート接客へと入っていく流れは出てくるだろうと。その先のキーワードは、フィジカルAI※8です。いきなり人型ロボットが働き始めるということではなく、これまで人が繰り返しやりながら定型化できそうでできなかった領域が、徐々に解除されていく。そのリソース制約が外れることで、端的に店舗がもっと増えたり、同じ投資で製造量が倍加したりする。そういう技術革新も、期待できる範囲に入ってきていると思います。

この領域になると、さすがに私たちのビジネスだけでは追いつきません。さまざまなプレイヤーや事業者の方々とアライアンスを組みながら、本社の意思決定や情報システムと、現場の一つひとつの工程とをうまく結びつけて、トップの意思決定が末端まで行き渡る仕掛けをつくる。それが求められてくるのではないかと思っています。

 

「AI時代のCX/Revenue Architecture」とは何か
― 自社を「クライアントゼロ」にする

―― ここまでのお話は、AIによって個々の業務を効率化するというより、顧客に価値を届けるための企業の仕組みそのものをつなぎ直す話にも聞こえます。御社が掲げる「AI時代のCX/Revenue Architecture」は、こうした考え方を指すのでしょうか。

磯貝 顧客にどのような価値を届けるのかを起点に、マーケティングや営業といったフロントだけでなく、その後ろにある業務やデータ、テクノロジー、組織までをどうつないでいくか。その全体を設計していくことが重要だと考えています。

AIが入ることで、それまで人や組織の境界によって分かれていた業務を、より一連の流れとして捉えられるようになります。そのときに、どこにAIを入れるかという個別最適化の話だけではなく、顧客価値や収益につながる一連の仕組みをどう設計し直すか。それが、私たちがCX/Revenue Architectureで考えようとしていることです。

いま私たちは、これらの改革をクライアントゼロ※9として実践しています。

これまで人がやっていたコンサルティングのオペレーションを、一度思いっきりAIに振ってみる。そうした取り組みを進めています。

たとえば、いまどういう案件があるか。どういう人がどのタイミングで空いてくるか。その人たちの過去のプロジェクト経験はどうか。こうしたものをAIで最適マッチングしていく仕組みを構築しながら進めています。

これまでは、人がやることの非効率さがある一方で、働くのは人ですから、仕事に対する熱意や将来のキャリアなど明確にパラメーターとして表れないところにも意識を向けながらやってきました。案件への取り組み方にしても、数字に表れないクライアントへの姿勢や美学的なものがあって、そこにアビームとしての「味」もあった。

 

―― そこをあえてAIに振ってみる、と。

磯貝 ええ。業務のオペレーションを思いっきりAIに振ってみたときに、組織としてどういう課題が出てくるのか。それをどう乗り越えられるのか。あるいは、やらせてはいけないことは何なのか。身をもっていろいろとトライしているところです。

このやり方をすれば絶対に大丈夫です、この業界でやったので横展開すれば大丈夫です、と言える領域もあれば、明文化されていない部分、何をどう判断すればいいのかが必ずしも自明ではない部分もある。そのあたりを体系化し、方法論化しながらアプローチしていく。ここは日本企業の企業文化もしっかり見ていかないといけない部分だと思っています。

 

顧客の期待と内部の仕組み ― CXが背負う「二面性」

―― ここまでのお話を踏まえると、CXとは顧客接点を改善するだけではなく、顧客の期待を起点に企業内部の仕組みを変えていくことでもあるのでしょうか。CXセクターならではの視点をお聞かせください。

竹谷 私たちのCXセクターは300名以上の組織ですが、アビームコンサルティング全体からすると10%に満たない規模です。この領域には少し特殊なところがあって、ビジネスコンサルタントというと、クライアント企業のなかの仕組みをつくっていくので、どうしても目線が内部に寄りがちなんですね。

CXはその真逆の発想をします。顧客に対して、いまどのような価値を提供できているのか。そして、顧客の期待を裏切らず、さらに上回るための仕掛けは何か。この順番で考えるフレームワークを持っている。組織的なDNAでもあります。

経理や人事といった基幹系の領域では、プロセスや精度、KPIがメインテーマになります。CXはそれも見ながら、同時に表側の顧客の期待値をどう超えるか、どう裏切らないかも考えなければいけない。この二つの側面を同時に追わなければいけない、難しいコンサルテーションだと思います。

 

―― 最近は、そこをさらに後ろ側とつなげようとされている。

竹谷 そうです。フロントに寄りがちだったところを、いかに後ろ側の仕組みとつなげて考えるか。これはRevOpsの中でも同じで、顧客接点だけではなく、バックエンドの最後、最終的にお金の支払いが発生するところまで一気通貫で考えることを是としてきました。

そのために、ソリューションのアライアンスの組み方、テクノロジー、ノウハウ、社内のさまざまな専門部署との協業やクロスセル、チーミングも、その軸で考えるようになってきた。ようやく形になってきているのではないかと感じています。

これから強化する領域
― バリューチェーン全体と、エコシステム

―― 今後強化していきたい領域について教えてください。

磯貝 領域としては、フロントだけでなくバリューチェーン全体、というお話をしました。私たちの課題認識として、デマンドチェーンやエンジニアリングチェーン※10といった上流は比較的顧客中心の発想がある一方で、サプライチェーンや生産といった工程になるにつれ、さまざまな制約の中で、だんだん企業目線になっていくと思うんです。

最終的に価値として顧客に届けられるものと、もともとデマンドチェーンとして把握していたものとの乖離は、まだまだあると思っています。バリューチェーン全体を顧客中心で考え、きちんと価値を届ける仕組みをどう構築するか。たとえば製販連携※11のように、バリューチェーンの間をきちんとつなげていく。それもBtoBかBtoCか、製造か金融かで意味合いも捉え方も変わりますから、インダストリーごとのアプローチとして届けられる価値、改革できる形にしていく。これが一つです。

 

―― もう一つは。

磯貝 AIが一気に浸透していく中で、私たちもクライアントも、同時に大きなテクノロジーの変化のさなかにいるということです。つまり、従来のようにさまざまな企業が時間をかけて培ってきたノウハウをベストプラクティスとして体系化したうえでクライアントに提供します、という従来のコンサルティングファームの価値提供モデルでは、間に合わない。

ですから、さまざまなソリューションパートナーやクライアント企業とのエコシステムをつくりながら、一緒に課題を発見し、解決していく。そういうループをつくっていくことが重要ですし、このアプローチを今後も強化していきたいと思っています。

竹谷 私も、いままさにパラダイムシフトがAIに寄ってきていると感じています。なぜパラダイムシフトだと思えるかというと、これまで解決していなかったリソース制約の解除や、構造そのものがごろっと変わることが見て取れるからです。ここを軸にして、企業の変革をどう進め、顧客に価値をどう提供し、そこにパートナーをどう巻き込む仕組みを成り立たせるか。AIのテクノロジーそのものだけでなく、その使われ方、最適な使い方に注力していきたいと思っています。

一方で、バリューチェーンといってもさまざまな企業やステークホルダーが絡みますから、その変革を一気に進めるのは難しく、どうしても進み方に濃淡が出てきます。たとえばある企業で経理業務や支払い業務が最適化されても、顧客や中間の販売店の方々が使っているシステムが同じかというと、そこにはギャップが出てくる。まだまだやむを得ず人が担う部分は残り得ます。

そこはすべてを私たちだけで解決できませんし、クライアント企業でも解決に至らない部分が出てくる。だからこそパートナーシップをつくって、先ほど申し上げた現場のフィジカルな領域も含めて、クライアントやパートナー側のサプライチェーンの組み立て・最適化と、私たちが向き合うエンタープライズ企業の仕組みとをつなげていく。エコシステムをつくるという話につながっていきますので、ここの強化は私も同じ目線で、注力テーマだと考えています。

 

01GROWTHとの取り組みについて

―― 最後に、弊社との取り組みについて、変化やご期待をお聞かせください。

磯貝 私は01GROWTHさんには、グローバルでのビジネストレンド、テクノロジートレンドの変化の潮流を早く捉えていくスピードと感性に期待をしています。海外の先進事例に触れながら、日本の実務に翻訳して発信されている。その発信が、クライアントに「これは自社の課題だ」と気づいていただくきっかけになることを期待しています。

私たちは、その潮流を企業変革へと確実につなげ、企業が目指す姿を理想論にとどめることなく、実現に向けて泥臭く取り組んでいきます。

構想を早く形にする力と、それを企業の中で有効に動くところまで持っていく力。この二つは、片方だけでは成立しません。だからこそ、掛け合わせる意味があると思っています。

さまざまなエコシステムやベンダーさんとの関わりがありますが、最終的にはRevOpsの考えにつながっていく。そこをうまくつなぎ合わせながら、生産性と競争力がいち早く上がる取り組みをしていきたい。ここ1〜2年はマーケットとしても勝負どころだと思っていますので、ぜひご一緒できればと思っています。

 

竹谷 私は磯貝が先行していた取り組みに途中から参加した形ですが、さまざまなクライアントの課題を伺いながら頭の中で思い描いていたことを、すでに01GROWTHさんが言語化してアプローチしていた。それを知ったことは、私にとって非常に励みになりました。

同じ絵を見ている相手と、それを形にしていける。これは心強いパートナーシップだと思っています。

これから広げていきたいのは、扱う範囲です。フロントの顧客接点から、ミドル・バック、さらにはバリューチェーンの向こう側まで。一社だけで解ける範囲はどんどん狭くなっていきますから、お互いの得意な領域を持ち寄りながら、クライアントと一緒に課題を見つけて解いていく。そういう座組みを、さまざまな施策やご提案の中で積み重ねていければと思っています。

01GROWTHとアビームコンサルティングは、本記事でお話しいただいた内容を、より実務に近い粒度で扱う共催ウェビナーを予定しています。

共催ウェビナー
(仮題) 「AI時代のレベニュー/CXオペレーション ― リソース制約の解除から始める変革の設計」
-      登壇:磯貝 智崇 氏、竹谷 伸一 氏(アビームコンサルティング株式会社)/丸井 達郎(ゼロワングロース株式会社)
-      開催時期:2026年11月(調整中)
想定しているテーマは、次のような内容です。
-      AI投資を「時間の短縮」ではなく「リソース制約の解除」として評価するには、何を測ればよいのか
-      RevOpsの考え方を、自社のどこから着手するのか
-      エンタープライズでAIを本番業務に組み込む際に、実務上の論点はどこにあるのか

詳細が決まり次第、当社ウェブサイトにてご案内します。

用語注釈

  • ※1 RevOps/MOps RevOps(レベニューオペレーション)は、マーケティング・セールス・カスタマーサービスを収益という一つの流れとして捉え、プロセス・KPI・データ・システム・組織を横断して設計し、運用する考え方。MOps(マーケティングオペレーション)は、そのうちマーケティング領域の運用を担う機能を指す。
  • ※2 SFA セールス・フォース・オートメーション。商談や営業活動の情報を記録・管理し、案件の進捗を可視化する仕組み。
  • ※3 VoC ボイス・オブ・カスタマー。問い合わせ、アンケート、レビュー、商談の記録などに含まれる、顧客が発した生の声。
  • ※4 パイプライン(マネジメント) 案件を進捗段階ごとに区切って管理する考え方。各段階の案件数や金額から、受注見込みを積み上げて把握する。
  • ※5 ERP 統合基幹業務システム。会計、購買、生産、人事などの基幹業務を一つのデータ基盤上で統合的に管理する仕組み。
  • ※6 BI ビジネスインテリジェンス。社内のデータを集約・可視化し、意思決定に用いる仕組み。
  • ※7 LLM 大規模言語モデル。大量のテキストを学習し、文章の理解や生成を行うAIモデル。
  • ※8 フィジカルAI ソフトウェアの中で完結せず、ロボットや設備、店舗の機器など物理世界の対象を動かすAI。人型ロボットのような汎用機ではなく、特定の作業に特化した形で普及が始まるとみられている。
  • ※9 クライアントゼロ 自社を最初の顧客と位置づけ、クライアントに提供しようとしている仕組みを、まず自社の業務に実装して検証するアプローチ。
  • ※10 デマンドチェーン/エンジニアリングチェーン デマンドチェーンは、市場の需要を起点に販売・供給計画へつなげる流れ。エンジニアリングチェーンは、製品の企画・設計から生産準備へ至る流れを指す。
  • ※11 製販連携 需要を見込む販売側と、供給を担う生産側の計画をすり合わせ、在庫や欠品の過不足を減らす取り組み。

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