旭化成エレクトロニクス株式会社

グローバルを含むマーケティングオペレーション(MOps)モデルの構築により、収益効果を可視化

「技術融合で知覚領域を拡張する」をミッションに掲げ、社会に貢献するイノベーションで人々が体験できる世界の拡張に寄与するべく、スマートフォンに内蔵する磁気センサー、電子コンパスや自動車などの各所で利用される半導体部品を開発する旭化成エレクトロニクス株式会社。各国の競合メーカーのデジタルマーケティングの進化が加速する中、グローバルのマーケットでの競争力向上を視野に、デジタルマーケティング推進をさらなる強化を決定。2022年秋、組織的なマーケティングオペレーションモデルの構築のため、ゼロワングロースによる人材育成とコンサルティングのハイブリッドサービスを採用し、マーケティングオペレーションモデルのプレイブック作成を実施。本記事ではそこに至る背景やプレイブックのプロジェクトによる効果や変化について、プロジェクトに携わっていただいた方々との振返りを紹介します。

お話を伺った方

旭化成エレクトロニクス株式会社 

  • デジタルマーケティング部マーケティング&セールスセンター デジタルマーケティング部 部長 鈴木岳様
  • 同部 第一グループ グループ長 池原章浩様
  • 西田達朗様
  • 中村祐太様
  • 同部 第二グループ グループ長  中川剛様
  • 重田啓介様
  • 井上望様

第一グループはフィールドマーケティング、第二グループはMOps(マーケティングオペレーション)という組織体制でデジタルマーケティングに取り組んでいらっしゃいます。
取材日:2024年3月6日。お役職は取材日時点のものとなります。

プロジェクトの背景と狙い

デジタルマーケティングの取り組みについて

(鈴木様)当社は以前よりデジタルマーケティングに取り組んでいましたが、新型コロナウィルス感染症の世界的な流行により、従来の対面での営業活動が困難となり、デジタルマーケティングの強化が求められていました。また、日本中心のビジネスから海外の比重が高まるという事業構造の変化もあり、デジタルマーケティングの進化が加速するグローバルの競合メーカーの動きは軽視できないものでした。グローバル拠点は営業の人数も限られている中、パフォーマンスを向上させていくために洗練されたマーケティングは不可欠でした。

当時の課題とプロジェクト決定の背景

(鈴木様)理論としてのマーケティングは各々学んでおり、どうあるべきなのかの理解はありました。しかし、様々な情報が世の中に溢れており、当社のビジネスにマッチする方策がわからぬままに取り組んでいました。暗中模索の状態で自己流となっていたことが課題でした。グローバル標準のデジタルマーケティングの基本の軸を理解していくことが最適と考え、ゼロワングロース様の支援を受けようと判断しました。ひとつの型をプレイブックとして確立し、その基礎となる戦術をベースに独自性を発揮していくのがよいという判断です。

(池原様)これまで開発側で経験を積んできたため、当初マーケティングの知見はあまりありませんでした。勉強しながら取り組んでいましたが、施策は思いついたことにどんどん取り組んでいる有り様で、その方法があっているのか、なんのためか、効果があったのかを疑問に感じながらでした。そんな折、丸井さんの『数字指向のマーケティング』を読み、元々ものづくりの世界で行ってきたようなオペレーションがマーケティングにも適用ができると気づき腑に落ちました。ベストプラクティスとなるオペレーションモデルを学び、どうすれば当社のビジネスにとって最も効果的なのかを見てみたいと思いました。

(中川様)もともと私はデジタルマーケティングの役割ではなく、CRMの管理を担っていました。当初はCRM管理とマーケティングは関係がないと思っていました。しかしプロジェクトに参画してデジタルマーケティングにおいてはCRMの連携が不可欠であることを理解し、現在活用しているテクノロジーを統合して活用していくことに価値があると考えるようになりました。ゼロワングロース様は、マーケティングの戦略面のみならず、テクノロジースタックデザインの面でもケイパビリティがあるということもあり支援をもらうこととなりました。

実務担当の視点での当時の振返り

(井上様)2022年の5月にマーケティングオートメーション(MA)の担当となり、なにもわからない中、Webの情報を頼りに勉強しながら孤軍奮闘していました。学びが深まるにつれ、目標とすべき  Adobe Marketo Engage 活用の理想像は理解できましたが、当時の弊社での活用状況とのギャップも大きく、途方に暮れていました。レベニューサイクルを可視化することをアサインされていましたが、それを作るためには現在運用しているプログラムを全て作り直す必要があったり、当時は営業の持ち物という認識の強かったCRMとのデータ連携が不可欠であるなど、1人では解決できないと確信しました。有識者のアドバイスやコンサルティングの必要性を感じていたところ、本プロジェクトに参加することが決まったのですが、私が指針にしていた Adobe Marketo Engageに関する資料を作ったのが正に丸井さんだったということが判り、これは求めていた支援が得られるはずだと感じました。

(西田様)2020年にデジタルマーケティング部に異動した当時は、良質なコンテンツを提供することで新たなリードを獲得し、それを商談へと繋げられると考え、施策を行っておりました。しかし、PVは増加したものの、リード獲得と商談の数に関しては期待ほどの伸びを見せませんでした。ゼロワングロース様の話を聞き、デジタルマーケティングは日本が得意とする製造業の生産フローと似ていると理解し、リード獲得から商談までの一連の流れの中でボトルネックを重点的にケアしていくことを学びました。この新しい視点からアプローチを見直したことで、リード獲得と商談の増加に繋げることができたと考えています。

プロジェクトの成功要因

ステークホルダーの巻き込み

(池原様)新型コロナウィルス感染症の影響もあり、会社全体として営業の在り方を根本から革新する必要性を実感していた時期でした。そのタイミングでゼロワングロース様から海外と日本とのリアルな差について講義を受け、課題が明確になり経営からの後押しも得られ、プロジェクトへの期待感が高まりました。これからも少しずつ成果を出しながら理解を得ていく必要があると思っています。

組織的な合意形成

(中川様)CRMは営業の管轄であるという会社は多いと聞きます。実際当社もそうでした。マーケティングオペレーションを設立する組織変更前は、営業組織のCRM担当という立場でプロジェクトメンバーとなりました。だからこそ営業組織とも協業して盛り上げていくことに繋げやすかったとも思います。部門長同士でのコンセンサスがとれており、また、CRMを使いこなせていないという課題感も持っていたことから、マーケティングがデマンドジェネレーションの側面からCRMの活用度を上げて管理していこうとなりました。

(井上様)MAの実務担当としては、システム全体を改修したとても大変なプロジェクトでした。検討や作業は個人業務で何とかなりますが、部門をまたいで営業を巻き込むことは決してボトムアップだけではできなかったと思います。トップダウンで全社の基準として、顧客管理の共通認識を持つことができました。システムを連携することができたのは、そうすることによって得られる効果が営業や経営層にしっかり理解してもらうことができたからこそと思います。プロジェクトの中では営業部との共通認識を持った合意形成が進みました。例えば、サービスレベルアグリーメント(SLA)の締結や、リードスコアリングなどは営業部との議論無しには本質的なものにしていくことができません。まだまだこれからですが、部署横断的な連携によって成果が出てきています。

(重田様)私もデータ連携などに躓かなかったのは、組織的に意思決定した取り組みだったからだと今は感じます。このプロジェクトを開始する前に、将来のあるべき組織モデルを検討し、必要な体制変更がなされていたから、組織の壁などよく聞く課題にぶつからず大きな苦労なくここまで来られたのかも知れません。プロジェクトのはじめにCRMの管轄を整備したのはきっと大きかったと思います。

プロジェクトの成果について

プレイブックの存在価値

(鈴木様)プレイブックは形式知として軸を言語化して残せていることが価値です。これは共有財産であり、今後なにかを変更する際の判断の軸や迷ったときなどに頼れる場所になっていくと思います。

(池原様)コンサルティングや研修は、聞いた時は理解している気になりがちです。体系立ててしっかり理解できていないと、組織内でも認識のズレや理解不足に気づくことになります。プレイブックがあることによって、そこに立ち戻り全員で共通認識を持って議論できるようになっています。各々が理解を深めるためにそれぞれ分担してプレイブックの内容について講義するという時間も取りました。自分ごとにしっかりしながらブラッシュアップしていきながら、会社全体にも啓蒙していきたいと思います。

(中川様)プレイブックは単なる参考書のようなものではなく、我々のためにカスタマイズされた台本のような存在です。立ち戻ると答え合わせができる場所でもあり、定期的に見直しながら、より洗練させたものにしていきたいです。

(重田様)プレイブックは、「なくてはならないもの」です。議論が空中戦になったり、すれ違った理解で話を進めてしまう事を防ぐ為の全員の拠り所です。世界標準の考え方や、社内で合意した事が書かれていて、手戻り無く確実に前に進めていくのに役立っています。継続的に更新していくものではありますが、変更の議論をする際にあらためて自分の考えの言語化を促してくれるツールでもあります。モデルを発展させていくことで新たな気づきにもつながります。

(中村様)プレイブックは、当社の考え方の軸でありフィールドマーケティングの活動での拠り所として活躍してます。マーケティング活動を実行しながら困ったときにはプレイブックを参照しています。実際の活動とプレイブックの往復により、活動の解像度が上がってきています。だからこそ、プレイブックへのフィードバックもできるようになり、活動レベルの向上とプレイブックのアップデートの相乗効果を感じています。

成果の可視化

(中村様)私はリードジェネレーションを担当しているので、展示会などの施策実行後、結果がすぐ目に見えてわかる領域です。数値で成果がわかることはモチベーションにつながりますが、当社のビジネスモデルでは、売上に繋がるまでは検討の期間が長く数年先となることもあります。自分のリードジェネレーションが売上成果として可視化できるというのはまだこれからで、その貢献度が可視化されてくるのが今後の楽しみです。

(西田様)受注に至るまでの時間が長いため、リードから商談へ進む件数は増えていますが、商談から最終的な受注に至るまではまだ見えていない状況です。しかし、商談数の増加により、営業チームとの新たな会話のきっかけが生まれ、結果としてコミュニケーションが活性化していると感じています。営業チームからの継続的なフィードバック収集の仕組みが整うことで、リードハンドオフプロセスが確立している手ごたえを感じています。これからの取り組みが売上向上に大きく貢献することを強く期待しています。

(鈴木様)プロジェクトをきっかけに起きた意識改革が組織を良い方向に導いていると感じます。データドリブンを目標に取り組んでいたものが形になっていき、自分たちの課題が見えるようになりました。数字の意識が1つの方向になり、組織的に大きなポジティブインパクトとなりました。

(池原様)数値管理を徹底することで、数字で結果を追う重要性を認識できています。曖昧な目標に向かって闇雲に努力するといった精神論ではなく、数値的な目標を達成するために必要なマーケティング活動の数やアクションなどが具体的になりました。商談はプロジェクト前と比較して20%増加したという成果が既に出ています。

今後の展望

今後の取り組みと01GROWTHへの期待

(池原様)まだまだ道半ばであり、マーケティング組織の中ではプレイブックは浸透していますが、今後は拠点の営業も巻き込んでいきたいです。開発側にもプロダクトアウトからマーケットインのアプローチになるために、マーケティングの立場で啓蒙するなどし、もっとよりよいものを世に生み出すということにも貢献していきたいです。ゼロワングロース様には、これまでの我々の成長過程を見ていただいている立場として、指南役として今後もお付き合いいただきたいです。

(中川様)現在はシステムの繋ぎこみが完了し、データが蓄積し始めたという段階です。次のステージでは、データを活用しフィードバックをもらえるようにしていかないといけないと思っています。営業にデータをインプットしてもらわないことには成果も可視化できないので、協力を得ていくためのコミュニケーションや協働関係も重要だと思っています。蓄積したデータの全社的な活用が今後の目標です。ゼロワングロース様には、今後当社が直面する多様な苦難を乗り越えるために支えていただければ心強いです。

(西田様)プロジェクトを経て、リードナーチャリングを実施してMQLを営業に渡すプロセスの認知が広がっています。営業も好意的に受け入れてくれる体制が整ってきました。今後はそのMQLの質をしっかり担保するためのナーチャリングプロセスにしっかり取り組んでいきたいと思います。グローバル水準のマーケティングにおける日本のパイオニアであるゼロワングロース様には、今後も継続して最先端の情報提供をお願いしたいです。

(重田様)今後はデジタルマーケティングの業務プロセスに組み込めるデータ分析の基盤を整え、改善ループを回しやすい環境を整備し生産性と成果を高めていきたいです。その成果から得られたインサイトを営業に共有し、営業の生産性を高めていくサポートをしたいですし、営業側から相談が舞い込むような状況を醸成していきたいです。今後ゼロワングロース様には、主に私の役割でもあるデータの可視化の領域でアドバイスを頂きながら、引き続きご支援いただきたいです。

(中村様)これまでの取り組みによってデマンドジェネレーションの数値が伸びています。次はコンバージョン率、ROI、収益インパクトなどが注目されてきます。これからは、利益を生み出すというビジネス成果への貢献にこだわっていきたいです。徐々に関係各所にも活動は認知され、相談も受けるようになってきています。結果を数値で証明し、デジタルマーケティングチームに相談すれば大丈夫だ、結果に貢献してくれる人たちだと認知され信頼を勝ち取っていきたいです。ゼロワングロース様には今後も我々がぶつかるであろう様々な壁を乗り越えるために客観的なアドバイスをいただきたいです。

(井上様)プロジェクトを通してABM戦略に適したプログラムが量産できるようになりました。スコアリングプログラムにおいては、営業部を巻き込みながら作成したTierリストによって、始めからクオリティの高いスコアリングプログラムを設計できており、MQLの確認工数も激減するなど進化を実感しています。高度なことに取り組めるようになりましたが、プログラムテンプレートやグローバルアセットの活用により効率的に実行できるようになったことで生産性が上がっています。これからは、まずは今の延長で効率化の追求に取り組んでいきたいです。他の製品群などにも展開していきます。そして、フィールドマーケティングと連携してテンプレートをどんどん良いものに見直していきたいです。また、マーケティングオペレーションの立場でシステム運用を行うとなると、どうしても社内中心や請け負い作業のようになってしまいがちですが、お客様の顔をしっかり思い浮かべながら仕事をしていきたいと思っています。MAの機能がアップデートされた際にそこに敏感に反応して、その機能によってお客様により価値のある顧客体験を提供できるかどうかを考え、フィールドマーケティングに提案するなど、顧客体験向上にもしっかり貢献していきたいです。