2024年のマーケティングトレンド

最終アップデート: 
February 5, 2024

BtoBマーケティングはコロナ禍を経て進化したテクノロジーの活用によって大きく進化してきました。2024年がスタートしましたが、この1年はどのような動きが生まれていくのか、最新のマーケティングトレンドを紹介します。

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BtoBマーケティングはコロナ禍を経て進化したテクノロジーの活用によって大きく進化してきました。
2024年も少し経過しましたが、この1年どのような動きが生まれていくか、マーケティングトレンドを紹介します。

AIは短期的な観点では過大評価されるが、長期的な観点では過小評価される

2023年に一気に普及した生成AIなどのAIテクノロジーは、「アマラの法則」で語られているように、短期的には過大評価され、長期的には過小評価されることになるでしょう。

まず、2024年には「第一世代」の生成AIへの反発が高まることが予想されます。シンプルなコンテンツのパーソナライゼーションを提供するテクノロジーや、既存のツールに生成AIが搭載されたものが増えましたが、BtoBの購買担当者は、以前から内容が薄かったり、関連が低いコンテンツに圧倒されているにもかかわらず、さらに画一的なコンテンツが増えることにつながり、かえって顧客体験を低下させてしまうことにつながりかねません。

実際、Forresterは生成AIで作成したカスタマイズ度の低いコンテンツは、B2Bバイヤーの70%の購買体験を低下させると予測しています。2023年11月、Googleが検索エンジンのアップデートをしましたが、これもAIが生成するコンテンツの品質に対する懸念が表面化したものと言えるでしょう。

これからは信頼性の低い情報や、パーソナライゼーションの不備、タイミングの悪いオファーなど、さまざまな形でAIコンテンツへの不満を感じる人が増えるでしょう。現時点で生成AIはあくまで人間のスキルを補強し、クリエイティビティや戦略的思考を補完する「アシスタント」的な役割を担っています。

しかし、長期的な観点で見ると多くのマーケターがAIがGo-to-Market戦略やプラットフォームに与えるインパクトを過小評価していると考えます。将来的には、チャットボットなどのテキストベースのコミュニケーションツールが、あらゆるキャンペーンに適した顧客を自動的に特定するようになるでしょう。その結果として、データ分析や複雑なセグメンテーションルールの設定のような専門的なマーケティングの知識が不要になり、高度なマーケティング施策のハードルが下がっていきます。また、A/Bテストやセグメンテーションを効率化することで既存のキャンペーンの効果を高め、ユーザーの反応をリアルタイムに分析しながら適切に反応するようになるでしょう。

さらには、人による指示ベースの動作から、より自動化されたオペレーションへと変化していくでしょう。能動的に問題を解決したり、外部ツールにアクセスしたりしながら、AIのネットワークにつながるでしょう。こうした進化が進むと、近いうちに完全に自動化されたマーケティングテクノロジーが登場するのも時間の問題かもしれません。それぞれのオーディエンスに対して最適な次のアクションを予測して自動で実行する、というような状態になれば、マーケティング担当者の主な役割は、AIモデルのトレーニングとチューニング、戦略的目標と制約の設定に集中することになります。AIは業務効率化だけではなくマーケターがテクノロジーを利用する方法を根本的に変えることになるでしょう。

セルフサーブの拡大

店舗でセルフレジを使ったり、アプリでサブスクリプションを管理したりと、昨今はセルフサーブ型のサービスが増えてきました。TrustRadiusの2021年の調査では、BtoBビジネスでも顧客自身が能動的に購買の意思決定を行えるサービスが好まれるようになってきていると明らかになりました。セルフサーブ型の商材では、Webで必要な情報を簡単に見つけ、簡略化された購買までのフローで顧客のニーズにあわせて製品やサービスをカスタマイズできるようになっています。BtoBにおいてもPLG戦略をとっている場合など、商材によっては主導権を顧客に握らせることも一つの方法になるのです。専門知識が必要な商材や高額のもの、大企業相手などの場合は稟議が必要になったり、意思決定のフローが長くなることもあるため、営業サポートが必要になるでしょう。

独自の調査やデータに基づくコンテンツ

従来のBtoBのコンテンツマーケティングは大きな転換点を迎えています。見込み客は単にボリュームのあるコンテンツを求めなくなり、ホワイトペーパーや完全ガイドの人気は下がってきています。さらに、生成AIの台頭によって世の中のコンテンツの量が爆発的に増えたことで1つひとつのコンテンツの価値が下がり、この問題を深刻化させています。

とはいえ、内容が充実したコンテンツや新たな発見を与えてくれるソートリーダーシップを通じ、ブランドを構築することが重要であることに変わりはありません。これから価値を発揮するものは、自社しか持ち得ない、独自のリサーチやデータに基づいたコンテンツです。具体的には、特定の分野における調査レポートや洞察レポート、業界調査、データに基づくコンテンツなどが、ソートリーダーシップのスタンダードになるでしょう。Pavillion and Kickstandの「Content to Conversion Report」によると、特に経営層はこの種のコンテンツを高く評価する傾向にあります。

動画の最適化

BtoBビジネスにおける意思決定者は膨大な情報量に圧倒されています。価値訴求や提案活動の中で注意を長時間引きつけ、維持することはかつてないほど難しくなっています。

BtoB企業はデジタルコンテンツのノイズを切り抜けるために、動画マーケティング戦略の最適化を進めています。動画の内容は多岐にわたり、学習シリーズやプロダクトの裏側、説得力のあるストーリーを伝える顧客事例まで、あらゆるものを制作しています。SNSでは、短時間でシンプルにまとめる一方で、視聴者を一気に引きつける強力なコンテンツを制作しています。動画をバイヤージャーニー全体にうまく配置することが重要です。

オウンドメディアとコミュニティを通じたブランドの確立

BtoBのコンテンツマーケティングの課題はコンテンツ作成ではなく配信にあります。これまで、コンテンツ配信をSEOやSNSに頼ってきました。しかしながら、SEOやSNSのアルゴリズムはコントロールができないものであり、リーチを増やすためにはペイドチャネルの活用も考える必要がありました。

従来のコンテンツマーケティングはオウンドメディアと会員制のコミュニティへと進化する必要があります。

オウンドメディアでは、Webサイト、ブログ、メルマガのように、企業が自由に管理できるチャネルがあり、動画、ポッドキャスト、ライブ配信、オンライン学習コース、認定プログラム、アプリなどさまざまなコンテンツ、そしてセミナーやカンファレンスなどのイベントもホストすることができます。

オウンドメディアの最大の利点は、高い費用対効果です。自ら配信をコントロールできることはコストの大幅な削減につながる上、外部のアルゴリズムに左右されることなく、直接的にオーディエンスと関係構築ができます。

この戦略の中心となるのは単なるオプトインではなく、能動的な購読者、コミュニティメンバーを増やすことです。ここで重要なのは、1)誰でもアクセスできる質の高いコンテンツを提供し、価値をアピールしつつ、2)購読者限定のコンテンツや体験、商品を提供し、特別感を通じてコミュニティを育むことです。

最終的な目標は、オウンドメディアへの単純な来訪者を増やすのではなく、ファンや賛同者のコミュニティを作り、ブランドの認知度を高め、ビジネスを成長させることです。このトレンドの一環として、ソートリーダーシップを持つインフルエンサーの影響は今後も高まるでしょう。

MQLの代替としての適格購買グループ(QBG)のトラッキング

購買グループという概念が、今後のGo-to-Market戦略で注目されていくことが予想されます。長年、MAなどを活用したリード単位でのマーケティングが盛んに行われてきましたが、特に高単価商材のマーケティングではその限界も見えてきています。ターゲット企業やターゲットの職種に注力した営業活動と、ホットリードに重きを置くマーケティングの活動の整合性が取りきれず、結果として意思決定者でなかったり、ターゲット企業の所属ではなかったりする個人を非効率的にターゲットしてしまっていることもあるのではないでしょうか。ABMはこの課題の解決策の一つである一方、各企業を広範に扱いすぎることで、1つの組織内における購買シナリオの多様性を見落としていました。

そこで注目されるのが購買グループです。購買グループは、購買プロセスに関与する組織内の個人の集まりです。このアプローチでは、BtoBビジネスにおける購買では個人が単独で行うことは稀で、さまざまな役割や影響力を持つグループによって行われることを前提としています。リードでもアカウントでもなく、購買グループという規模で考えていくのです。

従って、BtoBマーケティングにおける新しい基準として、MQL(Marketing Qualified Leads)に代わって、QBG(Qualified Buying Groups)について考える企業が増えることを予測します。とはいえ、購買グループをどのように特定するかは非常に難しく、行動データや属性データなどを収集し、AIの力も借りながら分析していく必要があります。そのため、2024年にQBGに取り組むのは最先端の企業だけにとどまることが想定されますが、2025年以降にはより多くの企業がこの戦略を採用することになるでしょう。

こちらの記事もご参考にしてください。https://www.01growth.com/blog/buyer-group-marketing-101

まとめ

BtoBマーケティングにおいては、マーケティング活動の自動化の進行と、コンテンツの質的な変化を目の当たりにする1年になると推測されます。個々の施策自体の高度化は非常に進み、ある意味ではマーケターの力量はキャンペーンのパフォーマンスというよりは、いかにこれらを管理していくか、そして顧客ターゲットをどのように定義してアプローチしていくか、という点で変化が見られると考えられます。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

大学在学中に株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてマーケティングインターン終了後、渡米。大学院にてマーケティングを学んだ後シリコンバレーに移りEd Techのスタートアップ企業、Couseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に『マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識』(MarkeZine BOOKS)がある。