キャンペーン制作におけるSLAの設定方法

最終アップデート: 
June 6, 2024

企業規模が拡大しマーケティング活動が増加するとキャンペーンを1人で管理運用することが難しくなります。複数人でキャンペーンの工程を細分化し、滞りなく実行に移すためにはSLA(サービス品質保証)の設定が必要です。本記事ではSLA導入のヒントを紹介します。

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企業規模が拡大し、マーケティング活動が増加すると、キャンペーンを最初から最後まで1人で実施しきることは難しくなってきます。そうなると、マーケティングマネージャーはチームをわけ、それぞれとコミュニケーションをはかりながら業務を任せていくことになります。チームは例えば、コンテンツチーム、キャンペーン制作チーム、QAチーム、プロジェクトマネジメントのような形で作られるでしょう。

1つのキャンペーンに対し、滞りなく実行に移せるようにするにはSLA(サービス品質保証)を設定することが必要です。SLAはよく営業とマーケティング部門間のリードハンドオフの際に設定されることがありますが、マーケティング部門内でも運用すると効果的です。SLAは企業によって期限が長かったり短かったり、基準が厳密であったり柔軟であったり、順守に強制力があったりなかったりしますが、少なくとも基準としては作っておくことが大事です。SLAは、MOpsの世界では一般的なものになっており、キャンペーン実行プロセスの規模を拡大しながら最適化を進めることを目指すのであれば、合理的なSLAを導入する必要があります。また、蓄積されたデータと予算に関する情報をもとにSLAの意味を裏付けることができれば、各チームに責任を持って順守させ、協力させる上で大いに役立ちます。 

この記事では、キャンペーンマネジメントの規模を拡大しているタイミングでも、新たにCoE(センター・オブ・エクセレンス)を構築しているタイミングでも、役に立つマーケティングキャンペーンのSLA導入のヒントと推奨事項を紹介します。

1)柔軟なSLAの設定

メールキャンペーンの作成期限をX時間以内と決める前に、まずはチームと話し合うようにしましょう。合理的なSLAの構築のためには、チームがリクエストを理解し、それに合わせて設定・構築を行い、そのうえでレビューを2~3回行い、必要に応じて最終承認・スケジュール・ローンチをするという、一連のステップを考慮しておく必要があります。SLAを設定するためのミーティングでは、メンバーのそれぞれが与えられたタスクを完了するために必要な成果物のリストと、目下のタスクに付随した別のタスクを含めて全て完了するために必要な時間を明確に定義することを目標にしましょう。

各タスクの所要時間を明確に決めるのは難しく、SLAの期限については柔軟に決められる範囲を設けておくことをおすすめします。そのために、タスクの実施のために必要なものが揃っている場合の所要時間の見積もりと、同じタスクを行う際に新たに情報収集が必要な場合の所要時間の見積もりをチームに提出してもらいましょう。チームメンバーがタスクを完了するために必要なものと、そのタスクの完了にかかる時間を理解することに時間をかけることで、SLAに真の労力と時間のレベルを反映させることができます。

例えばメールを一件書くにあたって何か情報を探す必要がある場合、執筆に30分かかるかもしれませんが、作成前に必要なものがすべて揃っていれば15分で済みます。その場合、メール作成には約15~30分かかると見積もります。

2) 緊急事態の想定

どんなに慎重にSLAを計画しても、「昨日中に送っていなければならなかった」という緊急のキャンペーンの相談を受けることがあります。こういったことは誰もが経験する落とし穴ですが、実際に発生した場合には、以下の3つのステップを踏むことで、チームのキャパシティを圧迫することなく、柔軟に対応できることを示しましょう

まず、リクエストに記載されたローンチ希望日を見直し、そのリクエストが本当に「緊急」なのかを判断するか、依頼者と相談して期限を数日遅らせることで、チームがリクエストを完了するための時間を確保します。

次に、リクエストに対応する担当者を決め、そのメンバーのキャパシティーを把握し、MOPsに支援できるリソースがあるかどうかを判断します。

そして、リクエストキューにあるタスクの優先順位を変更してリソースを確保するか、キャンペーンの実行スキルがあり、タスクに余裕のある他のメンバーに割り当てましょう。

それでも追加のリクエストに対応できない場合は、代替案を提示したり次回にマーケティング業務のリソースを確保するためにできることを伝えることで、マーケティング関係者との強い関係を維持することもできます。

こういった突発的なリクエストとそれに関連したすべてのやり取りは、共有ファイルや スペースで記録しておくようにしましょう。過去の履歴を簡単に参照できる場所に残しておくことで、特定のリクエストタイプが遅れ続けていることに気づいたり、チームが差し込みの作業に苦労していることに気づいたりした場合の対応方法を見つけ出せる可能性があります。 

3)単なるリソースではなく、チームメンバーとして

リソースとチームメンバーでは、捉え方が異なります。MOpsチームでは、リソースは特定の目的と用途を持つツールやアイテムとして捉えられがちですが、チームメンバーは、共有された目標を達成するために不可欠な、常に進化し続けるスキルセットを持つ個人として捉えられます。

これをMOpsチームに当てはめると、リソースはタスクを完了させることに集中する個人を表し、その責任はタスクの完了で終わります。しかし、チームの文化をビジネス上のより大きな目標に貢献することに重点を置いていれば、チームメンバーは自分の貢献だけでなく、他のメンバーを助けることにも目を向けるようになります。「チームメンバー」という視点を持つことで、緊急の依頼が発生した際にも柔軟に対応することができ、タスクをこなせる人数が増えるため、タスクの割り当てをより簡単に切り替えることができます。また、より多くのチームメンバーが大きな目標を共有することで、より質の高い成果物を生み出すことができます。

チームメンタリティを上げると、チーム内でのコラボレーション、スキル開発、自己啓発、コラボレーションを促進します。

4) リクエストを早い段階で明確にする

依頼内容の明確化は、多くのマーケティングチームがキャンペーン依頼プロセスの中で見落としている点の1つです。ほとんどのチームは、実際にリクエストが来るまでは、アプローチ先のセグメンテーションや典型的な購買ペルソナ、コミュニケーションの標準的な送信時間について、おおむねイメージできていると考えがちです。

例えば、このような一見簡単そうな依頼を考えてみましょう。 「このドキュメントをベースにメールを作成し、日本のすべての人事担当者に送信してください。現地時間の午前9時に送信するようスケジュールしてください。」

この依頼では曖昧な部分や、誤解を招きかねない点がいくつかあるのがお分かりでしょうか?こうしたミスコミュニケーションは、実際に作業を始めてから気づくことが多いのです。こういったコミュニケーションのずれが繰り返されることで時間がかかる可能性があります。ステークホルダーがチームに返答できるまで場合によっては数日かかることもあり、詳細の確認のための待ち時間は無駄な時間です。そのため、SLAを導入または更新する際には、チームや社内のリクエスト担当者に、できるだけ明確なリクエストを伝えるよう指導しましょう。そうすることで、チームがこなさなければならないさまざまなタスクに、可能な限り効率的に時間を費やすことができ、社内のチーム間の理解も深まります。 

5) ドキュメントの作成が大きな効果をもたらす

キャンペーンリクエストを明確で理解しやすくするために役立つのがドキュメンテーションです。すべてのチームがドキュメントを作成する余裕があるわけではありませんが、最低限のドキュメントを作成し、活用しているマーケティングチームは、そうでないチームに比べてMOPsのリクエストを理解するのがはるかに簡単です。最小限からでも良いので、リクエストを上げる側がよくつまづく箇所を特定し、そのガイドとなるドキュメントを作ることでチームの潜在的な不満や燃え尽きを軽減し、SLAプロセスを合理化しながら規模を拡大し続けることができるでしょう。

標準的なプログラム作成のSLA(時間)

ここまで、SLAを作成するうえでのポイントを紹介してきましたが、はじめてSLAを作成する方や、SLAを作成したものの、適切かどうかいまいち判断がつかない、という方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。ここで、一般的なプログラムの作成時間を紹介します。

プログラムの複雑さによって作業時間は異なってきますが、シンプルなプログラムを前提にした例です。

メールプログラム

内容: メールプログラムの作成、メールアセットを1つ作成、QA、承認と修正、スマートキャンペーンの有効化と削除
標準作業時間: 45分

ウェビナープログラム

内容: ウェビナープログラムの作成、ランディングページを3つ作成(登録ページ、登録完了ページ、オンデマンドページ)、登録完了メール、消費レポートの作成、リマインダーメールを2つ作成、講演者登録フォームの案内を作成、承認と修正、スマートキャンペーンの有効化と削除
標準作業時間:
3時間

リストインポート

内容: プログラムの作成、提供されたリストの管理、リストのアップロード、スマートキャンペーンの有効化
標準作業時間:
45分

ナーチャリングプログラム

内容: エンゲージメントプログラムの作成、各メールのためのテンプレートプログラムの作成、各メールの作成、スマートキャンペーンの作成、ターゲットリストの設定、プログラムの有効化(オーディエンスの観測を含む)
標準作業時間:
8時間以上

イベントプログラム

内容: イベントプログラムの作成、ランディングページを2つ作成(登録ページ、登録完了ページ)、登録完了メール、イベント参加者用の確認メールの作成、現地でのイベントフォローメールを2つ作成、QA、承認と修正、ターゲットリストの設定、スマートキャンペーンの有効化と削除
標準作業時間:
2.5時間

コンテンツプログラム

内容: フォルダプログラムの作成、ランディングページを2つ作成(登録ページ、登録完了ページ)、1つのアセットを作成、スマートキャンペーンの有効化と削除
標準作業時間:
1.5時間

SLA見直しのタイミング

上記の標準時間をもとに、既存のSLAを見直したいと考える人もいるのではないでしょうか。見直しにはいくつかの適切なタイミングがあります。 

新しいキャンペーンの開始時

新しいキャンペーンを開始するタイミングは、作業時間を見直すのに最適なタイミングです。最初に基準を作っておくことで、その後の作業時間と比較することでき、最初からプロセスのボトルネックや非効率な点を特定することができます。

定期的

四半期ごと、半年ごとなど、定期的に基準を見直す間隔を設定しましょう。こうすることで、実態に見合っているかを確認し、チームの作業効率の傾向やパターンを特定することができます。この時間を設定することで、マーケティングチームにSLAを伝える際にも役立ちます。

大規模なプロセス変更後

プログラムテンプレートの導入や新しいリクエスト受け入れプロセスを導入する際など、プロセスに大きな変更を加えた場合は、その変更によって効率がどう改善されたかを確認するために、ビルドを見直すことが重要です。 

大幅な遅延やエラーが発生した場合

ビルドプロセスで大幅な遅延やエラーが発生している場合は、基準時間を見直すことで問題の根本原因を特定し、必要な調整を行うことが重要です。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

大学在学中に株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてマーケティングインターン終了後、渡米。大学院にてマーケティングを学んだ後シリコンバレーに移りEd Techのスタートアップ企業、Couseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に『マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識』(MarkeZine BOOKS)がある。