BtoBビジネスにおいてコミュニティレッドグロース(CLG)を実現するコツ

最終アップデート: 
October 16, 2023

この記事では、BtoBビジネスにおけるマーケティングやカスタマーサクセスの重要性の高まりに伴い、企業が行うマーケティング活動としてのコミュニティマーケティングやコミュニティ・レッド・グロース(CLG)についてご紹介します。

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近年のSaaSスタートアップの増加や、BtoBビジネスにおけるマーケティングやカスタマーサクセスの重要性の高まりに伴い、国内でもコミュニティに関するプロダクトやサービスが増え、カスタマーコミュニティを立ち上げたり、コミュニティマーケティングに取り組んだりする企業が増えてきました。

SaaSビジネスやマーケティングに携わる方であれば、プロダクト・レッド・グロース(PLG)という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
PLGとは、営業活動中心ではなく、プロダクトが主役となり、優れた機能やUXの評判を通じて顧客を増やす戦略のことです。
近年、PLGを実践する上で、ユーザー顧客自身がそのプロダクトの良さを発信することのできるコミュニティの重要性が高まっています。

コミュニティの運営は、PLGを実現するための中核的な戦略として取り入れられることも多く、コミュニティを通じた成長、コミュニティ・レッド・グロース(CLG)と呼ばれています。
どんなプロダクトやサービスでも、顧客数が増えていけば自然にカスタマーコミュニティは生まれるものですが、強力なコミュニティがマーケティングで大きな役割を果たすのを認識したのはごく最近のことです。

情熱的な顧客で構成されるコミュニティを成功させれば、プロダクトやサービスにとって付加価値が生まれます。
なにより、同じ興味関心や問題意識を持ち、自分の価値観を理解してくれる人たちとつながれば仲間意識が芽生えますし、気持ちがいいものです。

この記事では、企業が行うマーケティング活動としてのコミュニティマーケティングと、コミュニティマーケティングを通じたビジネス成長を目指すCLGについて、メリットや成功までの進め方を紹介します。

ビジネスにおけるオンラインコミュニティとは

コミュニティマーケティングについての前に、まず、ビジネスにおけるオンラインコミュニティについて考えてみましょう。
オンラインコミュニティとは、共通の興味を持った人々が集うグループです。
オンラインコミュニティは、インターネットの発達とともに、ソフトウェアやガジェットなどのプロダクトカテゴリー中心に普及してきました。

オンラインコミュニティでは、掲示板形式のディスカッションフォーラムや、会員制サイト、メールなどを通じてつながり、プロダクトに関連する共通の趣味や業務などについて話し合うことができます。
近年は、SNSでも自然発生的なコミュニティができるようになりました。
この記事をお読みの方でも、例えば、X(旧Twitter)やFacebookで同じような考えを持つ人たちをフォローし、その人たちが発信するコンテンツを通じて交流しているのであれば、オンラインコミュニティの一員になっていると言えます。

コミュニティマーケティングやCLGの文脈で語られるコミュニティは、運営主体がプロダクトやサービスの運営企業であり、提供するプロダクトやサービスの顧客が参加するオンラインコミュニティです。

これは自然発生的なコミュニティやSNSでのコミュニティとは異なり、より多くのガイドラインや参加条件があります。
コミュニティの中で、運営の目的を共有することで、企業側もユーザー側も互いにメリットを享受でき、組織の成長につなげることができます。
オンラインコミュニティを構築することで、顧客はWebサイトやメルマガのような、一方通行の手段だけでなく、顧客同士、コミュニティメンバー同士、また社員やパートナーとつながり、公式・非公式な情報を入手することができます。

コミュニティ・レッド・グロース(CLG)とは

コミュニティ・レッド・グロース(CLG)とは、上記の企業主体のコミュニティの運営を通じて顧客のリテンションや獲得を行い、中長期的にビジネスを拡大させるための戦略です。
プロダクトやサービスの情報にとどまらないさまざまな情報が集まるプラットフォームを提供することによって、企業とユーザーの交流を深めます。顧客の多くは、プロダクトやサービスに関して、オンラインフォーラムを検索したり、信頼できる人におすすめを聞いたりしています。
そのため、プロダクトやサービスをうまく使いこなしたり、同じような業務に取り組む人からアドバイスをもらえるコミュニティがすでに存在していれば、そこに引き寄せられる可能性が高いのです。

コミュニティをビジネスの中心に据え、その発展をサポートすることで、有機的に成長するオンラインコミュニティを手に入れることができます。
プロダクトやサービスにお金を払ってくれている顧客がいれば、彼らの熱意や好意的な感情の助けを借りて、さらなるビジネス成長に取り組むのがCLGです。

CLGの適用は幅広い

コミュニティによりビジネスを成長させるのは、必ずしもPLGだけではありません。
例えば大規模な営業組織を抱えるSalesforceではTrailblazerと呼ばれるコミュニティがありますし、Adobeの法人向けサービスであるExperience CloudにもExperience Leagueと呼ばれるコミュニティがあります。

ユーザー同士が意見交換する場を設けることで、仲間意識が生まれたり、ユーザー間でより良い活用法が浸透したりして、カスタマーサクセスにつながっていますし、ユーザーの社内外でのプレゼンス向上にもつながっています。

コミュニティマーケティングに取り組むメリット

コミュニティマーケティングを通じて、ターゲットとする顧客層が含まれる活発なコミュニティを作ることができれば、大きなメリットが生まれます。
ここでは大きなインパクトを与えるメリットの一例を紹介します。

プロダクト・サービス開発

第一の、そしておそらく最も大きなメリットは、コミュニティから得られた洞察を開発やイノベーションに活用できることです。
コミュニティに参加する人々は、自分たちが何を求めているのかをオープンに発言します。
これは顧客にとってもメリットがあり、コミュニティを通じて企業に伝えることで、望んでいる機能を手に入れられる可能性が高くなります。
そのため、既存のプロダクトやサービスの気に入っている点、気に入らない点を教えてくれるだけでなく、場合によっては将来の開発のためのアイデアも出してくれます。

コスト削減

コミュニティを通じて顧客の情報を得ることで、2つの観点からコスト削減につながります。
第一に、顧客が抱えている問題を直接聞き出し、顧客が満足するであろうソリューションを作ることで、研究開発費を抑えることができます。第二に、顧客の問題解決につながらないプロダクトやサービスのマーケティングに時間を費やす必要がなくなります。

売上の増加

顧客をコミュニティに参加させることで、顧客に対してただ情報を一方的に届けるだけでなく、顧客の意見に耳を傾けることができます。
そうすることで、彼らのブランドに対する忠誠心を高めることができ、自発的にプロダクト・サービスについて宣伝してもらい、さらにユーザーの輪を広げることができます。

エンゲージメントの向上

コミュニティに所属する人々の多くは、コミュニティの外にもネットワークを持っています。
もしプロダクトやサービスについてネットワークの仲間と話していれば、そのネットワークを通じてブランドのことを耳にする人の数を増やすことができますし、その結果としてブランドのエンゲージメントを高めることができます。

コンテンツ作成

コンテンツは、どのようなビジネスであってもマーケティング活動で非常に重要なものであり、オーディエンスに向けて役に立つ情報を発信し続けることがブランドへの関心を維持する鍵となります。
オンラインコミュニティは発信された内容自体が価値のあるUGCとなり、マーケティング施策やWebサイトのFAQ、ブログ記事やそのほかのコンテンツのアイデアとして活用できる情報となります。

コミュニティの3つのタイプ

ここまで、コミュニティマーケティング、CLGとは何か、そしてコミュニティマーケティングのメリットと手法について紹介してきました。
次に、ディスカッションの内容をもとに、3つの異なるタイプのコミュニティについて紹介します。

プロダクトのコミュニティ 

このタイプのコミュニティは、プロダクトに関するディスカッションが中心のコミュニティです。
コミュニティのメンバーは、プロダクトを使いこなすためのヒントやTipsの共有、バグの報告、サポートチームへの問い合わせ機能、How Toコンテンツ、プロダクトロードマップや機能アップデートなどのコンテンツが中心となっています。
プロダクトコミュニティに参加するメンバーはブランドとのつながりを求めるだけでなく、他の人の質問に回答したり、新機能や機能改善に関するアイデアを投稿したり、クレームを伝える場として利用したりすることで、お互いをサポートし合います。

プラクティス(実践)のコミュニティ 

このタイプのコミュニティは、特定のプロダクトを中心として集まるのではなく、特定の分野について学びを深めるための、共通の興味や目標を持った人が集まるコミュニティです。
そのため、コンテンツの中心は、特定の業界や業務についての知識を得るものや、業務や趣味などでの目標達成をサポートする教育的な内容のものとなっています。
まだ日本ではビジネス上でプラクティスのコミュニティを実践しているケースは少なくイメージしづらいかもしれませんが、例えばDigital Nomad Worldはデジタルノーマッドとして働く人たちのコミュニティです。特定のプロダクトに縛られているわけではなく、共通の楽しみや悩みを持っている人たちのコミュニティになります。

遊びのコミュニティ 

遊びのコミュニティは主にゲーム、スポーツ、芸術などのファンが参加したものです。
例えば、メタバース空間は「遊びのコミュニティ」が発達したものであり、世界中のユーザーが新しい方法で他のユーザーやブランドとつながることができます。
そのため、ブランドはリアルな没入体験を追求し、ユーザーがデジタルでつながっていることを実感できるような仕掛けを作ることで、メタバースにおけるコミュニティ形成を次のレベルへと引き上げています。

CLGに効果的なタイプは?

さて、これまで3つのタイプのコミュニティを紹介しましたが、CLGを実現するのに特に効果的だと言われるタイプが一つあります。それはプラクティスのコミュニティです。

プロダクトのコミュニティはプロダクトを持っていないと入れないという大きな障壁があるため、プロダクトを使う人たちのコミュニケーションを活性化させるという意味では効果的ですが、人が人をよぶCLGのサイクルを規模を持って回すことは難しいのが現状です。
一方で同じ悩みを抱えるプラクティスのコミュニティはコミュニティ参加への障壁がないため成長しやすい作りになっているのです。
では、企業はどうこのプラクティスのコミュニティを活用しているのでしょうか?

CLGを促進するプラクティスのコミュニティ一例

RevOps Coop 

RevOps Coopはその名の通り、RevOps(レベニューオペレーション)に携わる人たちのコミュニティであり、FunnelIQという会社によって運営されています。
FunnelIQの創業者兼CEOのマット・ヴォルム氏はマーケットリサーチを行う上で、RevOps担当者たちが横のつながりを求めていることをしり、ビジネスにも繋げられるとの確信から、2020年9月にRevOps Co-opを立ち上げました。競合他社や関連会社ともパートナーシップを組み、RevOps関係者にとって忖度なく情報を集められる場にしたことで、今日現在彼らのSlackでは1万人弱のコミュニティメンバーを保持しています。
RevOps Coopに入るのにFunnelIQを使っている必要はないため、もちろん競合他社製品を使うユーザーもたくさん入ってきます。
しかし、コミュニティ内のデータは全てFunnelIQで活用できるものとなっているため、これを逆手にとり、製品開発やユーザーリサーチのソースとしたのです。

引用元:RevOps Coop 

The Community Club

同じように、The Community Clubはコミュニティ運営に携わる人たちのコミュニティで、Commsorという会社によって運営されています。
コミュニティ運営に関わるTipsや教育コンテンツ、イベント、ジョブボードなどを整備しており、コミュニティ担当者に役に立つコンテンツを提供しています。

引用元:The Community Club

彼らはこれらのコミュニティの中で、強過ぎない程度に自社のプロモーションも行います。
例えばウェビナーを行うときはその招待をしたり、自社のRevOpsやコミュニティ運営の思想をシェアしたりしています。
プロモーション色が強過ぎてもメンバーたちは自然に交流できなくなってしまいますので、自社コンテンツの割合が多くなり過ぎないように気をつけて運営しています。
それよりも、コミュニティメンバー同士が活発に意見交換をしてもらう環境づくりに集中しています。
少し遠回りのように感じるかもしれませんが、このように、コミュニティメンバー目線のプラクティスのコミュニティを運営することで、実際にプロダクトが必要になったときに第一想起してもらう、最初に問い合わせてもらうことにつながります。

まとめ

近年はBtoBビジネスでもユーザーコミュニティづくりが活発になり、マーケティング手法の1つとしてコミュニティが捉えられるようになってきました。
その結果、コミュニティを通したビジネス成長戦略としてのCLGの議論が活発になってきました。
コミュニティマーケティングのメリットを理解したうえで、どのようなコミュニティを作るかを検討し、効果測定を行いながらコミュニティを成長させていくことができれば、安定的なビジネス成長が見込めるでしょう。ぜひ検討してみてください。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

大学在学中に株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてマーケティングインターン終了後、渡米。大学院にてマーケティングを学んだ後シリコンバレーに移りEd Techのスタートアップ企業、Couseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に『マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識』(MarkeZine BOOKS)がある。