メール到達率の改善

最終アップデート: 
July 12, 2023

メールマーケティングを行う上で最も気をつけたいのがメールの到達率です。最悪の場合、メーラーからスパムと認定され、全く受信されなくなってしまうということも。この記事ではメールの到達率を維持する方法をご紹介します。

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メールマーケティングは、デジタルマーケティングの中でもコストを抑えながら高い成果が見込める手法であり、B2B企業では特に多くの企業が実践しています。あまり話題に上がることはありませんが、最も気をつけたいのがメールの到達率です。最悪の場合、メーラーからスパムと認定され、全く受信されなくなってしまうということも起こりえますし、そうでなくても、闇雲にメールを送り続けていると迷惑メールと判定され、開封率が著しく低下してしまうことも考えられます。この記事では、メールの到達率を維持しながら、スパムや迷惑メール扱いとなってしまうことを避け、高い反応を維持するための方法について考えていきます。

そもそも「メール到達率」とは

メール到達率は、定義としては「購読者の受信トレイにメールを届けられる力」のことです。B2Bマーケティングでは、オプトインできているリードに対してメールが正常に届けられているかどうかを、到達率、デリバラビリティとして考えます。
到達率を重要視する理由には以下のようなものがあります。

  • もし送ったメールが受信されなければ、シンプルにメールマーケティングの努力は無駄になってしまう
  • ISP(インターネットサービスプロバイダ)や、GoogleやYahooなどのメールサービス、MA(Adobe Marketo EngageやHubSpotなど)、メール配信ツール(MailchimpやSendgridなど)は、送受信により厳格な運用を行い、管理・監視を洗練させています。ただ闇雲にメールを送っているだけでは受信ボックスに届けることが難しくなっています。
  • 到達率の維持は問題が発生した際に改善するよりも、そもそも問題が発生するのを防ぐ方がはるかに簡単です。到達率が一度落ちたりブラックリストなどに入ってしまうと解消するまでに数ヶ月かかることもあります。一定期間メールでのエンゲージメントができなくなると、多くの企業で多大な影響が出るでしょう。

到達率の問題の範囲を把握する

到達率の改善に本格的に取り組むためには、デリバラビリティツールの導入を検討しましょう。国内向けのツールはあまり多くありませんが、海外のメール配信ツールにはオプション機能として提供されていたり、ない場合でも、独立したEverestなどのツールを活用できます。

これらのツールは、メールドメインが受信可能な状態か、スパムとしてマークされているか、あるいは完全に拒否されているかを特定するのに役立ちます。 さらに、これをISPごとにフィルタリングしてくれます。

受信トレイは、スパムトラップやプリスティントラップを特定するのにも役立ちます。これらのトラップは簡単にいうと企業がどれだけ頻繁にメーリングリストを整理し綺麗に保っているかを試すためのトラップです。それぞれ詳しく説明しましょう。

  • スパムトラップとは、使われなくなったメールアドレスをISPが再利用しトラップとして運用するものです。例えば、第一商事の佐藤さんは2年前に退職していて、その後のメールを一度もクリックしていないにも関わらず、メールを2年間も送り続けているようであれば、メーリングリストを定期的にクリーンアップしていないと判断され、スパムトラップにかかる可能性があるということです。
  • プリスティントラップはISPが作成する偽のメールアドレスです。こういった偽のメールアドレスを売られているリストなどを経由してばらまくことがあります。 プリスティントラップにメールを送ってしまうということは、オプトインしていないリストをインポートしていると言えるため、即スパム扱いとなってしまう、という仕組みです。

ブロックリストに登録されてしまったら

ブロックリストに登録されてしまった場合には、デリバラビリティツールやMXtoolboxなどの無料のサービスを使って、ブロックリストに追加されているかどうかを確認します。 追加されてしまった場合は、最優先で取り組む必要があります。

小規模なブロックリストでは、単にメールでリクエストを送るだけで解除されるものもありますし、そのほかのリストでも、解除されるための基準が定められています。例えばSpamCopの場合、48時間以内にクレームがない、またはクレームが少なければ解除されます。そのため、メール送信を一時的に停止するか、最もよく配信を行っているセグメントへのメール配信ボリュームを減らすかのいずれかが有効です。

しかし、この問題が長引いたり、SpamHausのような特に厳格なリストに入ってしまった場合には、単独で解決するのは難しいため、ESPやMAのデリバラビリティチームに助けを求めましょう。 ESPやMAの配信チームも到達率の問題を重要視しており、多くの場合、正しく配信できるようにするための専門チームを抱えています。

IT部門と協力してメール配信の問題を解決する

問題の大きさが明らかになれば、IT部門と連携して解決に向けて取り組みましょう。具体的には、以下の手順で進めることをおすすめします。

まず最初に、DNSレコードが正しく設定されていることを確認します。正しく設定できていなかったドメインの状態のまま到達率を改善しようとしても意味がありません。 DNSレコードは、過去のITチームが設定したものであることが多く、手順を理解しないまま誤った設定を行っている可能性があるため確認します。多くの場合SPFレコードとDKIMレコードはマーケティング部門で設定するかと思いますが、こちらも改めて調べてみましょう。

受信側のメールボックスでロゴを表示させたいのであれば、新たな規格であるBIMIの設定も進めるとよいでしょう。現時点(2023年)ではGmailやAppleメールで対応しており、信頼性が高まるだけでなく、受信ボックスでも目を引く形で表示されます。

IPウォームアップを行い、不安を解消する

ISPは、新たなドメインからメールの配信ボリュームを突然増やすことを好みません。 これは典型的なスパマーの手口のため、ISPのスパム対象となってしまい到達率に深刻な影響を与えます。

IPウォームアップはあまり耳にしたことがない方も多いかもしれませんが、メールマーケティングを行う上では一般的な作業です。 以下のような場合は、必ずIPウォームアップを行いましょう。

  • 企業を買収し、データベースを引き継いだ場合
  • 新会社を設立したり、ドメインを変更する場合
  • 大きなセグメントにはじめてメールを送信する場合
  • 大量のメールリストを購入した場合(そもそもリストの購入自体を避けるべきです)
  • 一気に注目を集めたり、人気が出たりしてデータベースが爆発的に増加した場合

MAやメール配信ツールを導入する場合もベンダーの指示に従い、IPウォームアップを行うようにしてください。

MOpsと連携してメール配信に取り組む

メールの配信性を向上させるもう一つの有効な手段は、MOpsと連携してメールマーケティングの改善に取り組むことです。例えば以下のようなことに取り組んでみましょう。

  • バウンスしていたり非アクティブになったりしているメールアドレスを定期的にデータベースから削除する
  • 役割ベースのメールアドレス(sales@やmarketing@ではじまるメールアドレス)を定期的に削除する。 
  • 展示会やスポンサーイベントなどで獲得したリストを確認する。 
  • リードソースごとにエンゲージメントをフィルタリングする。 特定のリードソースでエンゲージメントが低いことはないでしょうか? 多くの場合、BDRや営業担当者が独自にリードを獲得し、データベースに追加することがあります。 そうすると、これらのメールアドレスは、オプトインされていないにもかかわらずマーケティングメールの送信対象リストに登録されることになります。オプトインされていないメールアドレスにメールを送ることは認められていないので、事前にフィルタリングできる設定をしておきましょう。

メールテンプレートと配信方針を見直す

メールの到達率を高め、より高いパフォーマンスを発揮するため、メールマーケティングを見直す際には以下のような取り組みができるでしょう。

  • 配信停止用のリンクをメールテンプレートの一番上に移動する
  • フッターのプライバシーポリシーや配信停止用のリンクの上に無駄な余白を作らない
  • テキストを減らし、興味を引くようなリンクつきの画像を使う
  • 署名欄に事業所の住所を記載する
  • メール配信時には同一の差出人名を使用する
  • 一定間隔でメールを送信する。
  • もしメールの配信ペースを変更したいのであれば、IPウォーミングアップと同じように扱い、徐々に進める
  • モバイルに対応したレスポンシブなメールを作成する
  • ウェルカムメールシナリオを作成し、ブランド認知度を高める。 オプトインしても多くの方はすぐにどんな会社かを忘れてしまうため 興味を維持させるような情報をすぐに送り配信停止やクレームを減らす

パフォーマンスの高いメールを広く展開する

受信ボックスへ届く可能性を高める最も重要な要素は、エンゲージメントです。 継続的に開封数とクリック数でメールのパフォーマンスを確認し、再現性のある方法を見つけましょう。 最も簡単なのは、パフォーマンスが高いメールをさらに活用することです。

セグメントメールとプリファレンスセンターの設置は、エンゲージメントを高めるために検討してもよい方法と言えます。セグメンテーションに基づいてパーソナライズされたメッセージを送れば、それだけエンゲージメント率が高くなります。

また、メールを受け取るタイミングやフォーマット、最も興味のあるトピックを自分で選択できる場合も同様に、エンゲージメントが高くなりやすいです。

抜本的な対策が必要な場合

メール到達率が低下している場合には、もっと深く切り込む必要があります。 過去60日間に開封履歴があるリストはどのようなものでしょうか。 過去90日で絞るとどうなるでしょうか。レピュテーションが高まれば、再エンゲージメントプログラムを実行することで非アクティブなコンタクトを再度アクティブにすることができる可能性があります。仮に再エンゲージメントメールに反応がない場合には、そのまま削除すればよいのです。

ただ、覚えておいてほしいのは、到達率の改善には時間がかかるということです。効果が出るまで、数週間から数ヶ月かかることもあります。 パフォーマンスが低下した場合には、必ずベンチマークを記録し、クリック数や開封数が改善傾向にあるかどうかをモニタリングしてください。

まとめ

日本国内ではリストの購入ができないこと、メール配信の際にはオプトインが必須になっているため、メールマーケティングによってスパム判定されることは少ないですが、それでも迷惑メールとして認定されるなど、メールの到達率や開封率が低下する危険とは常に隣り合わせであることを覚えておきましょう。

そのうえで、到達率を維持し高めるためには、この記事で紹介したように、地道にやるべきことをやることが欠かせません。メールマーケティングのパフォーマンスの低下にお悩みの際はぜひ一度自社のデータベースやメールマーケティングの指標を確認してみましょう。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

大学在学中に株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてマーケティングインターン終了後、渡米。大学院にてマーケティングを学んだ後シリコンバレーに移りEd Techのスタートアップ企業、Couseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に『マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識』(MarkeZine BOOKS)がある。